るしい」
「千ちゃん、しっかり、さあ、ぼくが引っぱってやる。とにかく操縦席までいってみよう」
 川上は山ノ井を抱きおこしながら一所けんめい操縦席の方へ通じる、ろうかをはっていった。しかしそれは、かめの子が、はうほどにのろのろしたものであった。艇内の気圧は、すごく低くなったらしい。が、生きているあいだの最後の力をふるったために、二十分ほどかかって、ようやく二少年は操縦席にのぼることができた。
 そこで二人は助けあって、スイッチをひねったり、レバーを引っぱったり、ペダルをふんだりして、ありとあらゆる応急処置をこころみた。その結果は……?
「だめだ、発電しない。原子力エンジンの方もとまっている。もう処置なしだ」
 山ノ井は、そういった。がっかりした声である。
「蓄電池《ちくでんち》の方は?」
「だめ、ぜんぜん電圧がない。……もうだめだ。死ぬのを待つばかりだ」
「そうかね。どうせ死ぬものなら、死ぬまでに後部へいって、どんなにこわれているか見てこよう。いかないか」
「もうだめだ。何をしてもだめだ。ぼくにはよくわかっている」
「ぼくはいってみる」
 めずらしく二少年の意見はわかれた。山ノ井はそのまま操縦席に、ポコちゃんの川上は、またそろそろとはって艇の後部へ。
 だが、どこまで不幸なのであろうか。そのとき、まひ性《せい》のエーテルガスがどこからか出て来て二人の肺臓《はいぞう》へはいっていった。それで、まもなく二人とも知覚《ちかく》をうしなって、動かなくなってしまった。
 カモシカ号は、どこへいく?
 二少年は、時間のたったのを知らなかったが、それから、やく二十四時間すぎた後《のち》、二人は前後して、われにかえった。気がついてみると、明かるい光りが窓からさしこんでいる。呼吸は、たいへん、らくであった。
「おやおや、これはどうしたんだろう」
 ポコちゃんの川上が、大きなあくびをしながら、立ちあがった。すると、その声に気がついたとみえ、千ちゃんの山ノ井が、操縦席の階段の下からむっくりとからだをおこした。
「ふしぎだ。重力の場へ、いつのまにかもどっている。エンジンはとまっているのに、重力があるとは、おかしい」
 足どりは二人ともふらふらであった。ふらふら同士が、ろうかのまん中でばったりあって、顔を見あわせた。
「千ちゃん、ぼくたちは、めいどへ来たんだ。しかし、じごくかな。ごくらくだろう
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