て、出入口から綱をくりだした。それが長い尾を引いてポコちゃんの前を走る。ポコちゃんは死にものぐるいで、この綱にとびついた。とびついたはいいが、とたんにポコちゃんは全身の骨がばらばらになるほどの強い反動を感じ、目が見えなくなった。でも網は手からはなさなかった。
千ちゃんの方は一所けんめい、この綱を機械でまきとって、ポコちゃんのからだを艇内に、ひっぱりこんだ。
三つの気密室を、息もたえだえに通りすぎて、二少年がもとの艇内へはいったときには、二人ともすっかり力を使いきって、その場にへたばったまま、起きあがれなかった。
と、そのおりしも、ものすごい音が艇の後部に起った。百雷《ひゃくらい》が落ちたようなすごい音だ。とたんに電燈が消えた。めりめりと艇をひきさく音がする。
「やられたっ。すい星と衝突だ」
「千ちゃん、艇はこわれたらしいね」
二少年を積んだまま、まっくらになったカモシカ号は、どこへともなく落ちていく。
人の顔か花か
二少年は、死にものぐるいの力をふるって、起きあがった。
「千ちゃん、千ちゃん」
「おい、ぼくは、だいじょうぶだ」
「ぼくもだいじょうぶ。早く操縦席へいってみよう」
二人は手さぐりで艇内をはいはじめた。艇内の電燈は消えて、くらやみだが、ただ夜光塗料をぬってある計器の面や、通路の目じるしだけが、けい光色に、ぼうっと弱い光りを放っている。
「ああ、これはへんだね。呼吸が苦しくなった」
「ぼくもだ。ポコちゃん、艇がこわれて大穴があいたんだよ。そこから空気がどんどん外へもれていくんだ。弱ったね。呼吸ができなければ死んでしまう」
「じゃあ、ぼくは空気帽をぬぐんじゃなかった。ぬいだと思ったら、さっきのドカーンだ。だからどこへ空気帽がいったかわからない」
「しゃくだねえ。ここまで来ながら、呼吸ができなくて死ぬなんて……」
「ぼくがわるかった。重力平衡圏で、よけいなことをして遊んで、てまどったのがいけなかった。千ちゃん、ごめんね」
「そんなことは、あやまらなくてもいいよ。しかし月世界探険のとちゅうで死ぬなんて、ざんねんだ」
「もういいよ。死ぬ方のことは神さま仏さまへおまかせしておこう。それでぼくたちは、それまでのあいだに、できるだけ修理をやってみようじゃないか」
「だめだろう。あと五分生きているか、十分生きているか、もう長いことはないよ。あっ、く
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