のとき、小浜兵曹長はこれを見つけて、
「とまれ! あなたは誰ですか」
 と、殺人光線灯をむけました。
「やあ、君のことかね。いま、向こうの洞穴のなかで、帆村君から聞いてきたよ、僕|一身《いっしん》のため、まことにすまないことをした」
「あなたは誰です。どこかで見たことのある人だが」
「わしのことか。君にわからないというのは、たいへん残念だ。わしは大利根じゃ」
「えっ、大利根博士!」
 と小浜兵曹長は、おどろきの目をぐわーっと開き、
「そうだ、はっきり覚えています。軍艦はじめ方々でお目にかかった大利根博士だ。博士、われわれはあなたが怪塔王のために、殺されたこととおもっていました」
 そういいながらも、兵曹長はじっと博士の顔から眼をはなしません。
「そうおもうのも無理はない。なぜか怪塔王は、わしが死んだように見せたかったのだ。わしは、とつぜん研究室にとびこんできた怪塔王たちにつかまり、この島へつれてこられたのだ。そしてあの洞窟のなかにとじこめられ、ひどい目にあっていたよ。さっき帆村探偵にすくわれ、こんなうれしいことはない。しかしよく聞いてみると、君が飛行機でこの島へとんでこなければ、このような勝利は得られなかったとのことだ。いや、お手柄じゃ、お手柄じゃ」
 と、大利根博士はしきりに小浜兵曹長をほめます。博士にほめられて、小浜兵曹長は、わるい気がしませんが、あぶないあぶない、博士の眼がきょろきょろ。

     5

 怪塔ロケットの中です。
 小浜兵曹長は、秘密艦隊との連絡をおえて、ほっと一息というところ。そこへ思いがけなく大利根博士がたずねてきたので、よろこびが二重にふえました。兵曹長は、まさか大利根博士が、あのおそろしい怪塔王だということは知りませんから、大利根博士を心の中に信じきっています。あああぶないことです。なにかまちがいがおこらなければいいですが――
 大利根博士は、なにか小浜兵曹長のすきをみつけてやっつけようと、眼玉をぎょろつかせています。
 ちょうど、そのときでありました。
 窓の外にとつぜんはげしい物音が聞えだしました。
 ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ。しゅう、しゅう、しゅう。
 そうしてなにか、電《いなずま》のような白い光が、小浜兵曹長の眼をさっと射しました。
「ああ、なんだろう」
 兵曹長は、すぐ窓のところにかけよりました。彼の顔が、急にかたくなりました。
「あっ、ロケットだ。ロケットが、島へかえってきた」
「えっ、ロケットが、島へかえってきたって」
 大利根博士もつづいて窓のところによりました。なるほどまちがいなくロケットです。西太平洋の空中で、秘密艦隊のためにあべこべ砲で手きびしくやっつけられたロケット隊の生きのこりの一台です。
「おお、あれは隊長ののっているロケットだ」
 大利根博士は、おもわず、そうさけびました。
「えっ、隊長機? 隊長とは、誰のことですか」
 兵曹長は、博士の言葉をききとがめて、たずねました。
「隊長機――というのは、つまり怪塔王の部下で一番えらい奴が、隊長としてのりこんでいるロケットだ――どうだね、小浜君、あのロケットが着陸するのを待ってとり押さえては――」


   光るロケット



     1

 隊長機のロケットを、とり押さえてはどうだと、大利根博士|実《じつ》は怪塔王からいわれて、小浜兵曹長は大きくうなずき、
「そうだ。よろしい、あのロケットをとり押さえよう。これはすばらしい獲物だ」
 いつ、どんなときにも、おそろしいということをしらぬ勇士小浜兵曹長は、この白骨島に不時着このかた、ちょうど腕がなってしかたがないところでありましたので、怪塔王にいわれるままに、ロケットを分捕《ぶんど》ってしまう決心をかため、階段をかけおりました。
「どちらへお出かけになりますか」
 と、黒人が心配そうにたずねました。そのとき怪塔ロケットは、悪いところが直って、まもなく出発できるようになっていました。ですから、黒人は、兵曹長からの約束で、いよいよ体を自由にしてもらえるときがちかづいたとよろこんでいたところでありました。
「いま、着陸するロケットがあるから、あれを分捕ってくる。ちょっと待っておれ」
「は、そうですか」
 といったものの、黒人は、小浜兵曹長があまりに大きなことをいいだしたのにびっくりして、あとはいいだす言葉も見つかりません。
「じゃ、ちょっと待っているんだぞ」
 といい捨てて、小浜兵曹長は外にとびだしました。
 そのとき、兵曹長の耳をきこえなくしてしまいそうに、ロケットの尾からふきだすガスのはげしい音! それとともに、あたりはもうもうとした白い煙のようなもので、すっかりおおわれてしまいました。兵曹長は、ロケットを見失ったかと思いましたが、そのとき、ひゅうっと、一陣の風もろとも、灰色のロケットの巨体が砂をけちらしながら、四五百メートル先の草原に着陸しました。
「おのれ、分捕ってくれるぞ」
 兵曹長は、猟犬のようにかけだしました。

     2

 ついに、生きのこりの隊長機のロケットが、着陸したのです。小浜兵曹長は、そこまで四五百メートルの間を、一秒でもはやくかけぬけようと大地をけったそのとたん、
「おやっ、あぶない。これはいかん?」
 とさけぶなり、兵曹長は、だあっと地上にうちふしました。
 だだだぁん、どんがらからから。
 ものすごい光が見えたとおもうと、たちまち天地もくずれるような爆音です。ひゅうっばらばらと風をきってとびくるのは、爆弾の破片でありましょう。兵曹長は、いちはやく、頭上からおちてくる爆弾に気がついたので、その破片にやられないため、地上にからだをふせたのです。
 ものすごい爆撃は、なおもつづきます。一体どうしたことでしょうか。
 実は、それは隊長機の最期の場面だったのです。隊長機は、ずいぶんがんばって、秘密艦隊やその空中部隊と、戦《たたかい》を交えましたが、あべこべ砲のためついに自分がひどくやっつけられ、その生命とたのんでいた磁力砲がこわれ、使えなくなりました。それでも逃げるだけ逃げようと、根拠地の白骨島へ着陸したとき、追跡してきた空中部隊のためさんざんな目にあわされました。
 磁力砲がこわれてしまえば、もうそのあとは爆弾や砲弾をはじきかえす力がなくなりました。そこをねらって、わが空中部隊は、爆弾の雨をふらせたのです。
 小浜兵曹長は、あぶない一命をたすかりました。そのとき彼のあたまの中には、もう一つのロケットのことをおもいだしました。
 兵曹長がふりかえったとき、煙の間に、眼の底にやけつくようにはっきりみえたのは、怪塔ロケットの出発のありさまです。
 ばばぁん、ばばぁん。
「あっ、しまった。待て!」
 といったが、もうおそい、怪塔ロケットは隊長機といれかわって、大空にとびあがりました。

     3

「黒人のやつ、降参したようにみえていたが、とうとう俺をだまして、怪塔ロケットでにげてしまったか」
 小浜兵曹長は、無念のあまり、腹ばいながら、いくたびか大地をうちましたが、もはやどうにもなりません。
 しかし、みなさんは、すでにおわかりになっているとおもいますが、怪塔ロケットを俄《にわか》に出発させたのは黒人ではなく、大利根博士だったのです。博士は、そのようなときがくるのを待っていたのです。しかも、ぐずぐずしていれば、秘密艦隊の爆撃のそば杖をくわないともかぎりません。
 だだだーん、ひゅーっ、どどどん。
 地上からは、半ば壊れながらも、隊長機が、しきりに空中にむけて、砲弾をうちあげています。敵ながらあっぱれの隊長機でありました。それに応じて、わが空中部隊も、ここを先途《せんど》といさましい急降下爆撃をくりかえします。地上は硝煙《しょうえん》につつまれ、あたりはまっくらになりました。
「これは、すごいことになったぞ」
 こうなると、兵曹長も、これから先、自分の運命がどうなるのか、まったくわからなくなりました。あとからあとへつづけざまの爆裂、雨のようにとびくる爆弾の破片、それらはあまりにはげしく、兵曹長は、一時怪塔ロケットをとりにがした無念さをわすれるほどでありました。
 それから何分かたって後のことです。
 地上にあった隊長機は、ついに一大音響をあげて爆発しました。そしてロケットは、一団の火の塊《かたまり》となり果て、その焔《ほのお》は、えんえんと天をこがし、すさまじい光景となりました。
 この大爆発のため、小浜兵曹長は、ついに体に二つ三つ傷をうけたらしく、ひりひり痛みだしました。が、しらべてみると幸いにかすり傷ばかりでありました。どこまでもつよい武運によろこんだ兵曹長は煙の中から、すっくと立ちあがりました。

     4

 小浜兵曹長の無念さといったら、なににたとえようもありません。せっかく占領した怪塔ロケットがいつの間にやら兵曹長をあとにのこして、空中へとびあがってしまったのです。硝煙にむせびながら、兵曹長はいくたびとなく空中を見あげましたが、そこには、怪塔ロケットの姿がなく、ただロケットの怪奇な響だけが、ごうごうときこえます。
「なんのことだ。とうとううまく逃げられちまった。ざんねん!」
 兵曹長は、痛手に屈せず、立ちあがりました。このうえは、空中へ信号をして戦友に対し、自分や帆村がこの島にいることをしらせたいとおもいました。そこで、帆村のいる丘の上へのぼるのが一番いいと思って歩きかけたとき、とつぜん、煙の中からとびだして来た一人の人物がありました。
「おお、小浜さん」
 小浜さんとわが名をよばれて、兵曹長は、はっとその方を見ました。
「やあ、帆村さん、まだ爆撃中だから、あまりうごくとあぶないよ。どうして、あなたは、こんなところへ?」
 帆村探偵は、全身ずぶぬれです。
「いや、えらい目にあいました。この上の洞窟の中でね。例の大利根博士にあったんですが、博士のために、すでに一命をおとすところでしたよ」
「ああ大利根博士、博士なら、さっきここへも来たが。――」
「えっ、博士は来ましたか。そして、博士はどうしました。小浜さんは、なんの危害もうけなかったのですか」
 そういわれて、兵曹長は、いまいましそうに舌うちをしました。
「やられたよ、うまくやられてしまった。せっかく怪塔を占領していたのに、博士が来て、うまいこといわれて俺は外へとびだした。すると待っていましたとばかり、怪塔は空へとびだしてしまったよ」


   意外な通信筒



     1

 硝煙のあいだに、ふたたび手をとりあうことのできた帆村探偵と小浜兵曹長とは、たがいに勇気百倍のおもいです。
「小浜さん、これから、どうしますか」
「それはわかっている。あくまで怪塔王をやっつけるのさ。そして、この根拠地をすっかり占領してしまうのさ」
「わかりました。では、われわれはさしあたりなにをすればいいのでしょうか。戦《たたかい》は空中で始っています。それなのに、われわれには、飛行機もなければロケットもない。これでは、空中にとびあがろうとおもっても、できないのが残念ですね」
「うむ、さっきから、それを残念がっているところだ。ああ、われに一台の飛行機があれば、怪塔王をどこまでも追撃するんだがなあ」
 と、小浜兵曹長も、両腕をさすってくやしそうです。飛行機のない航空兵、そして空中には壮烈な空中戦がひきつづきおこなわれている。まったく、兵曹長の心のうちは気の毒でありました。
 そのときでありました。硝煙わきたつ島上に、にわかに猛烈なプロペラの音が近づいてまいりました。
「おい帆村君、敵か味方かわからんが、低空飛行でもって、こっちへやって来るやつがいる。はやくそのあたりへ体をかくすがいいぞ」
「あ、わかりました」
 といっているうちに、硝煙をやぶって、二人の頭上に近づいた数台の飛行機がありました。
「あっ、味方の攻撃機だ。あぶない、体をかくせ」
 いちはやく兵曹長は、飛行機の種類を見きわめて声をあげました。機翼にあざやかにえがかれている日の丸! たしかにそれは味方の攻撃機です。しかし、この低空飛行はなぜで
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