一人が、警戒に来ているお巡《まわ》りさんのところへやってきて、話をはじめました。
「警官、藁《わら》むしろは集りそうですか」
「ここの村では、水兵さんが申し出られたほどは集りませんが、その半分ぐらいは集りそうです。のこりの半分は、いま方々へ人を出して集めていますから、心配はいりませんよ」
「そうですか。早くしてもらいたいですね。潮はこれからどんどん引くそうだから、軍艦はますますあぶなくなります」
「水兵さん、一体どうしてあんなことになったんです。航海長の失策ですか」
「いや、そんなことはない。全く不思議というよりほかはないのです。いつの間にか、あの大きな艦体が陸地へひきよせられていたというわけです。まるで磁石に吸いよせられた釘《くぎ》のようなわけですよ」
「変なことですねえ」
「変なことといえば、もっと変なことがあるんです」
「えっ、もっと変なことがあるんですか」
 とお巡りさんは、びっくり顔色をかえて水兵さんの面《おもて》を見つめました。
「そうです。さらに変なことというのは、軍艦の檣《ほばしら》が――これは鋼鉄でできているんですよ。それが一部|熔《と》けて、飴《あめ》のように曲って
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