いへんなのか」
すると兵曹長は、大尉の前へ腕をのばして海岸の方をゆびさしました。
「塩田大尉、あれをごらんください。あそこにたっていた塔が、どこかへ姿を消してしまったではありませんか」
「なに、塔が姿を消したって。誰がそんなばかばかしいことを本当にするものか」
「いや、そのばかばかしいことが本当に起ったのです。では塩田大尉には、あの塔が見えるのでありますか」
「見えないはずはない、あの塔は、あの辺にたしかにあったと思ったが――」
と、塩田大尉は甲板の上から、小手をかざし、かねて覚えのある場所をしきりにきょろきょろと眺めましたが、どうしても塔が見えません。
(変だな、たしかあの林のそばに建っていたと思うが、見えないとはどういうわけだ)
塩田大尉の顔はだんだんと紅くなってきました。そのうちに、反対に顔がさっと蒼《あお》ざめてまいりました。
大尉は、拳をかためると、欄干《らんかん》をとんと叩きました。
「これあ不思議だ。小浜、お前のいうとおりだ。たしかにあの塔が見えなくなった」
「やっぱり私の申しましたとおりでしょう」
「うむ、これはたしかに一大事だ。あの塔が見えなくなったとすると、
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