尉は、自分の乗組んでいた軍艦に起った事件ですから、どうかして自分の手でしらべあげたいと思っていました。
 いま塩田大尉は、士官室の大きな卓子《テーブル》の上に、この辺の地図をひろげ、検察隊の士官や兵曹などと、額をあつめて相談をしているところです。
「どうも分らん」
 と、塩田大尉は、太い首をよこにふりました。
「東京から派遣された調査隊の中に、帆村荘六という探偵がいた筈だが、その後一向ここへやって来ないじゃないか」
「それがですね、塩田大尉」と、小浜《こはま》という姓の兵曹長が、達磨《だるま》のように頬ひげを剃《そ》ったあとの青々しい逞《たくま》しい顔をあげていいました。
「それがどうも変なのであります」
「なにが変だ」
「この先の別荘に泊っているので、今朝からいくども使者をやっていますが、その別荘にはミチ子さんという、親類のお嬢さんがいるきりで、本人は一彦君というミチ子さんの兄にあたる少年をともなって出たまま、まだ帰ってこないというのであります」
「ふーん、どこへ行ったのかな」
「お嬢さんもよく知らないといっていましたが、なんでも向こうの塔を見にいったとかいう話です」
「なに塔だって
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