もりましたが、やがて思いなおしたように、
「うん、よろしい。外ならぬ遠来の珍客のことだから、案内してあげよう。こっちへ来なさい。ここから下りるのだ」
 博士は魚油灯をもって先に立ち、はやそろそろと岩根づたいに下りていきます。
 帆村探偵は、はじめて見るおそろしい断崖に、目まいを感じながら、博士につづいてそろそろと下りました。
 博士は、なかなか元気で、先に立って、するすると下りていきます。ともすれば帆村は遅れてしまいそうです。
(博士は元気だなあ。それに、この洞穴のことをよく知りぬいているようだ)
 帆村は、心の中でひそかに感心いたしました。
 博士の魚油灯は、すでに断崖を下りきって、洞穴の底にある岩のうえで、うすぼんやりした光を放っています。
 このとき、博士の目がきらりと光りました。博士の目は、今しも岩根につかまって、下りることに夢中になっている帆村の上に、じっととまっていました。帆村は、博士がそんな恐しい目つきをして、こっちを睨《にら》んでいるとは気がつきません。
「あっ、しまった」
 一声、帆村が叫びました。
 彼は、濡《ぬ》れた岩根を、あっという間に足をふみすべらし、ずるずる
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