顔だの、おそろしい顔ではありません。
いや、むしろおそろしいの反対で、ずいぶん滑稽《こっけい》な顔なのです。それは、よくお祭のときなどに、つくり舞台のまんなかへ出てきて滑稽なことをやってひとを笑わせるひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]だの、汐《しお》ふき[#「ふき」に傍点]だのというおかしい面をかぶった者がありますが、そのうちであの口のとんがった汐ふきそっくりの顔をしていたのです。
(あははは、おかしいな)
と笑おうとした一彦でしたけれど、老人を笑うなんてよくないと思って、あわてて笑《わらい》をかみころしました。
汐ふき顔の老人は、なんにも気がつかないという風に、兄妹のうしろをとおりすぎました。そしてどこまで行くのか、袋を肩にかついだままとぼとぼと浜づたいに向こうへいってしまいました。
「ミチ子、いまのお爺《じい》さんの顔を見た」
「ええ見たわ。口が狐のようにとんがって、ずいぶんおかしかったわ。兄さんも見たの」
「うん、僕も見たとも。笑いたくてね、それをこらえるのにとても困っちゃったよ。あはは」
「おほほほ」
「ミチ子、ちょっと兄さんが真似《まね》をしてみせようか。ほら、こんな
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