ません。そんなことをやれば、たちまち墜落です。
 青江三空曹は、ついに綱わたりをあきらめて、体をしきりにくねくねさせています。なんとかして服に燃えついた火を消したいとおもい、必死の努力をつづけていますが、風はいよいよあらく、火は燃えさかる一方です。あわれ青江三空曹も、いさましく怪塔に進撃の途中で、火だるまになって焼け死ぬかとおもわれたその時――
「おい青江、がんばれ」
 とつぜん、青江の耳になつかしい声がきこえました。
「おお」
 とふりかえって見ると、おもいがけなく自分のうしろに、いつ来たのか小浜兵曹長がやはり綱にぶらさがって、こっちへ近づいて来るではありませんか。
「ああ、上官」
 青江の瞼《まぶた》から、あつい涙がはらはらとこぼれおちました。部下をおもう小浜兵曹長のあつい心に感激した涙でありました。
「おい青江、力をおとすな。おれが火を消してやるから、もうしばらくの辛抱《しんぼう》だ」
 と叫んだのですが、はたして兵曹長は、火だるまになった青江をすくうことができるでしょうか。


   あわてる怪塔王



     1

 怪塔にわたしかけた一本の麻綱に、あぶない生命を託してぶ
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