よほどあやしい機械とみえまして、音がふらふらよっぱらいのようにふらついてきこえます」
「ふん、まるで上陸した夜の、貴様の足どりみたいだな」
 と、塩田大尉はおどろきの中にも、勇士のおちつきをみせて、からかえば、
「いや、どうも」
 と、兵曹長は頭をかきました。

     3

 機上の塩田大尉は腕ぐみして、「怪塔王と和睦をしろ」という無電を、一体誰が出したかと思案中です。
「すると、やっぱりこれは帆村探偵が出している無電にちがいない。怪塔王が、怪塔にそなえつけの無電機をつかって、電文を打って来るのなら、こんな貧弱なそしてふらふらした、無電ではない」
 帆村が怪塔王に降参した、としか思えないのでありました。
 そのとき、平磯基地をとびだした爆撃機隊から、連絡無電がはいってきました。
「本隊は、高度三千メートルをとりて、鹿島灘上に待機中なり、貴官の命令あり次第、ただちに爆撃行動にうつる用意あり、隊長|松風《まつかぜ》大尉」
 爆撃機隊は、海上三千メートルのところをぶらぶらとんでいて、塩田大尉が命令を出しさえすれば、すぐにどこでも爆撃するという電文です。いよいよおそろしい空からの爆撃戦が用意せられました。
 それでは、どこを爆撃するか。怪塔のあるところを早くみつけねばなりません。塩田大尉は水戸の上空にかかったとき、全隊にそれぞれ偵察コースを知らせ、これからばらばらにちらばって、地上にかくれている怪塔をさがすことになりました。さあ、手柄をあらわすのは、どの偵察機でありましょうか。
 午後四時十分!
 待ちに待った「怪塔が見えた!」の電文が一機から発せられました。それっというので、塩田大尉ののっている機も、その方へ急いで向かっていきました。小浜兵曹長は、「怪塔が見えた!」のしらせをうけると、自分が見つけそこなったのをたいへん残念に思いました。この上はというので、望遠鏡を地上に向けて、怪塔のすがたを早く見ようと一生懸命です。
 それは勿来関よりすこし西にいき、山口炭坑と茨城炭坑の間ぐらいの山中に、なんだか五十銭銀貨を一枚落したような、まるいものが見えました。

     4

「あっ、あれだ」
「そうだ、怪塔が見える」
 偵察機上の塩田大尉も小浜兵曹長も、思わず席からからだをのりだしました。
「爆撃機隊へ連絡!」
 大尉が叫んだので、通信員はすぐさま無電装置のスイッチを入れ爆撃機隊の司令をよびだしました。
「はい、爆撃機司令です」
 塩田大尉は、マイクを手にとって、眼下に見える怪塔のありさまを知らせました。そしてすぐさま爆撃をするように頼んだのでありました。
「承知しました。すぐ全機で急行いたします」
「頼みましたよ」
 それからものの十分とたたないうちに、東の空から爆撃機隊の翼がみえてまいりました。両隊の無電は、しきりに連絡をはじめました。そのうちに打合わせは、すっかりすみました。
 爆撃機体は二隊にわかれ、いずれも四千メートルの高度をとり、怪塔の上にしずかにすすんでいきます。
 塩田大尉も、小浜兵曹長も、偵察機の上からかたずをのんで、その行動を見守っています。
 そのうちに先にとんでいる爆撃機隊の編隊長機がまず機首をぐっと下げました。あとの僚機《りょうき》もそれにならって、順番に機首を下にしました。急降下爆撃です。
 機体の胴中から、まっくろいものが五つ六つ、ぱっと放りだされました。爆弾です。
 爆弾は仲よく一しょにかたまって、ぐんぐん下におちていきます。
 第二番機の爆弾群が、またあとをおいかけて、ぐんぐん地上の怪塔に追っていきます。
 さあどうなるのでしょう。あと数秒で、いよいよ土をふきとばし、黒煙が天にまきあがる大爆発がおこる――と思っていましたが、ところが実際は、そうなりませんでした。まことに不思議、いつまでも爆発がおこりません。

     5

 怪塔の中には、「怪塔王と和睦せよ」という無電をうった帆村荘六もいるはずですし、一彦少年も一しょのはずです。それにもかかわらず爆弾を怪塔の上に落すのは、まことに気のすすまないことでしたが、帝国海軍に仇《あだ》をなす怪塔は、たとえ一日でも、一時間でもそのままにしておけませんから、それゆえ塩田大尉は、涙をふるって爆撃隊に爆弾を落すよう命じたのでありました。
 その爆弾が、下にぐんぐんおちていったきりで、そのまま音沙汰《おとさた》なしになってしまったものですから、爆撃員はすっかり面くらってしまいました。
「爆弾を投下したが、爆発しない!」
 と、妙な電文が、塩田大尉のところにとどきました。
「爆弾を投下したが、爆発しない――というのか。そんなばかなことがあってたまるか。なあ小浜兵曹長」
「はあ、わからんでありますな。爆弾が昼寝をしているわけでもありますまい」
 爆撃機六機の落した爆弾は
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