太刀風との両方から方向を測って、その地点は勿来関だとちゃんといいあてることができるのですから、じつにすぐれた機械だといわなければなりません。わが日本には、世界にじまんをしていいほどのりっぱな方向探知器があるのは、気づよいことです。
 塩田大尉の顔は、さすがによろこびの色にあふれて、小浜兵曹長の手をかたくにぎり、
「方向探知器の方が、大利根博士よりもえらい手柄をたててしまったぞ」
「はあ、そうでありますか」
「なぜといって、大利根博士は怪塔ロケットがどこへ行ったかしらべるのは、なかなかだといっておられた」
「はあ、では大利根博士に、怪塔の行方がわかったと知らせますか」
「そうだね」
 といって、大尉はしばらく考えていましたが、
「まあ知らせないでおこう。すこし思うところもあるから」
 と、意味ありげなことをいいました。
 それはそれとして、あのよわよわしい怪電波は、果して怪塔から出ているのでありましょうか。それならば、誰があの信号を出しているのでしょうか。
 怪塔にとじこめられていた帆村探偵と一彦少年とは、いまどうしているのでしょうか。
 それはともかく、塩田大尉は、小浜兵曹長のもってきた怪電波のでている地点のしらべを、一切、艦隊旗艦にしらせました。
 司令長官はこのことを聞かれると、すぐさま勿来関へむけて、偵察機隊をむけるよう命令をだしました。
 塩田大尉や小浜兵曹長も、その人数のなかに加ることになり、九十九里浜にさよならをすることになりましたので、ミチ子を軍艦にまねいてお別れの言葉をのべ、一彦や帆村をたすけだすことをちかいました。


   偵察機出発



     1

 怪塔王がかくれているところは、勿来関の近所らしいという見当をつけ、わが塩田大尉や小浜兵曹長は、ミチ子にさよならをして、偵察機の上にのりこみました。
 偵察機隊は、すぐ空中にとびあがりました。翼をそろえてまっすぐに、北へ北へとんでいきます。九十九里浜は、まもなく目にはいらぬほど小さくなってしまいました。
「塩田大尉、平磯《ひらいそ》基地からも、爆撃機六機が勿来関へむけて出かけたと報告がありました」
 と、機上の無電機をあやつっていた小浜兵曹長が伝声管のなかから大尉に知らせて来ました。
「うむ、そうか」
 いよいよ怪塔王を征伐することになったのです。しかし怪塔王はそんなにやすやすと退治されるでしょうか。
 しばらくして塩田大尉は、
「おい、小浜兵曹長、そののち怪塔からの無電は、なにかはっきりしたことをいって来ないか」
 すると伝声管のなかから小浜のこえで、
「軍艦淡路を出てからこっち、あの怪電波はすこしもはいりません。ただいまも、一生懸命にさがしているところであります」
 と言って来ました。
「そうか、無電を打ってこないとは心配だ。空中へのぼれば、無電は一層大きくきこえるわけだから、むこうで無電を出せば、きこえない筈はないのだ」
 と、そう言っているうちに、とつぜん小浜兵曹長が、おどろいたようなこえをあげ、
「あっ塩田大尉、はいりました、はいりました。たしかに例の怪電波です。たいへん大きくきこえます。こんどは符号もよみとれそうです」
「それはすてきだ。しっかり無電をうけろ」
 さて怪塔からの無電は、どんな意味のことを放送しているのでしょうか。塩田大尉は胸をおどらせて、小浜兵曹長の報告を待っていました。

     2

 機上に、ふたたびきこえはじめた怪電波をじっときき入るのは、小浜兵曹長でありました。
 ト、ト、ト、ツート。
 ト、ト、ト、ツート。
「ふむ、分るぞ分るぞ」
 と、兵曹長は片手で受話器を耳の方におさえつけ、一字ものがすまいと、まちかまえていました。
 すると、いよいよ怪電波は、通信文をつづりはじめました。
 さあ、なにをいってくるのか?
「――カイトウオウトワボクセヨ、ホムラ」
 電文は、「怪塔王と和睦せよ、帆村」というのであります。小浜はまったく意外な電文だとはおもいましたが、すぐそのまま塩田大尉のもとに報告いたしました。
 おどろいたのは塩田大尉です。
「なんだ、怪塔王と和睦せよ――というのか。帆村荘六は気が変になったか。それともこれは怪塔王のにせ電文かもしれない」
 帝国海軍の最大主力艦であるところの、軍艦淡路をめちゃくちゃに壊した乱暴者の怪塔王を、どうしてゆるせましょう。その怪塔王と仲なおりをしなさいという帆村探偵の電文は、どう考えても腑《ふ》におちません。
 帆村探偵はとうとう怪塔王のために捕虜となり、そしてむりじいにこんな電文をうたせられたのではないでしょうか。
「おい小浜兵曹長。いまの無電は、この前軍艦淡路できいたのと、同じ無電機でうってきたのだろうか」
「はい、同じものだとおもいます。音は大きくなりましたが、向こうの機械は、
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