怪塔の近くにある欅《けやき》の木の高い梢《こずえ》のうえにありました。それから下は筒になっていて、欅の木の幹の中を通り地中にはいります。すると、そこから横に曲り怪塔の方へのびています、がその曲りかどに反射鏡がありました。
 怪塔が地上にのぼっても、またいまのように地下にもぐっても、怪塔の中からうまく地上の風景がのぞけるようになっています。まったく怪塔王はおそろしい発明家です。まだまだいくらでもおそろしい機械をもっています。
 それをのぞいた怪塔王は、怪塔がどこにいったろうと、陸戦隊が地上をうろうろさがしまわっているのが見えたものですから、もう駄目だと思いました。
「仕方がない。惜しいけれど、逃げることにしようや」
 そういって、怪塔王は、傍《かたわら》にある配電盤の上の大きなスイッチを一つ一つ入れていきました。そして最後に大きなハンドルを廻しますと、地底からおどろおどろと怪しい響が伝わってきました。そしてその響はだんだん大きくなり、やがては耳がきこえなくなるくらいはげしくなりました。


   飛ぶ塔



     1

 とつぜん怪塔の地階におこったものすごい物音!
 一体それは、なんであったでしょうか。
 らっ、たったったっ、
 らっ、たったったっ、
 とにかく、それは怪塔王が起しているものにちがいありません。
 一階にいた帆村探偵も一彦少年もこのものすごい物音には、胆《きも》をつぶしてしまいました。まわりの壁は、まるで金槌《かなづち》で叩いているかのように、がんがん鳴っています。足の下の床もびりびりびりと気味わるく震動いたします。
「おじさん、これはなんの音だろうね」
「さあ、よくわからないけれど、なんだか地べたの中で、さかんに爆発しているようだね」
「地震じゃないかしら」
「うん、地震とはちがうさ。怪塔王は、軍艦から砲撃されると聞いて、逃げだすつもりらしいのだ。してみればこの怪塔をなんとかうごかすつもりなのだろう」
「どんな風に動かすの」
「さあ、それは――」
 といっているところへ、床が壁もろともいきなりぐぐーっともちあがりました。
 と、思ううちに、またどーんと下へおちました。
 二人はとてもそこに立っていられないので、腹ばいになりました。
 どどーん、どどーんと室は四度、五度とあがったりさがったりしているうちに、一段と高い音をたてるとともに、ひゅーっと上の方にとびだしました。
「あっ、とびだした」
「うむ、やったな――」
 帆村と一彦は、いいあわせたように跳ねおきると、かたわらの小さな窓の鉄枠につかまって、一生けんめいに窓のそとをのぞきました。
 さあ、そのとき二人の眼に、どんな光景がうつったことでありましょうか。

     2

 ごうごうと、ものすごい音をたてて震える怪塔の中!
 その窓わくにとりすがって、外をのぞいた帆村探偵と一彦少年!
「ああっ、これは――」
 と、はげしいおどろきの声が、二人の口から一しょにとびだしました。
 窓の外の、まったくおもいがけない光景――ああこんなことがあってよいものでしょうか。そこに見えたものは、あの赤土の壁でもありませんでした。また二人が見なれた白い砂浜と、青い海原にとりかこまれた森の中の風景でもありませんでした。それはなにもない空でした。いや、なにもないわけではありません。白い雲が、あっちこっちにぽっかりうかんでいます。たったそれだけです。大地や海原はどこへいってしまったのでしょうか。
 二人は、大地と海原とをみつけるのに、大骨をおりました。なぜといって、二人が窓わくに顔をぎゅっとおしつけて、むりをしてはるか下をながめたときに、やっとその大地と海面とが、まるで模様かなにかのように足下に小さく見えているのを見つけたのです。おどろいたことに、怪塔はいつのまにか大地をはるかにはなれていました。そして天へむかって、ものすごい速さでびゅうびゅう飛んでいくのでありました。
「一彦君、これはたいへんだ。僕たちはいま空中をとんでいるのだよ」
「えっ、空中をとんでいるの。やはりそうだったの。僕は頭がなんだかぼんやりしてしまった」
 といったのも道理です。二人のとじこめられた怪塔は、いま空中を弾丸のようにとんでいくのでありました。今まで塔だとばかり信じていたのは、普通の塔ではなかったのです。空中を飛行機よりも早く走るといわれるあのロケット機であったことがわかりました。

     3

 いま帆村探偵と一彦とは、怪塔ロケットに閉じこめられたまま、思いがけない空中旅行をしています。
 怪塔ロケットを操縦しているのは、いわずと知れた怪塔王です。
 一たい怪塔王のほんとうの名前はなんというのでありましょうか。まだだれもそれを知りませぬ。
 このロケットというのは、だいたい砲弾に尾翼を生《は》
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