、どうしよう?)
探偵が、ぎくりとして、今後のことを考えたその瞬間でした。
ぷすーっ。
妙な低い爆発音が、帆村のすぐうしろで聞えました。
「あっ――」
と思って、帆村がふりかえってみますと、いま音のした岩の上から、黄いろい煙がもうもうと立っているではありませんか。とたんに、一種異様の悪臭《あくしゅう》が、鼻をつきました。あ、毒ガスです!
5
大利根博士は、煙の中に平気で立っています。その顔には、いつどこからとりだしたのかガスマスクがはまっています。
「ああっ――」
帆村探偵は、のどに、目に、はげしい痛みをおぼえて、両手でめちゃくちゃにかきむしりました。
卑怯な毒ガス攻撃です。
いまさら卑怯だといってもはじまりませんが、大利根博士から毒ガスのごちそうをうけようとは、今の今まで思っておりませんでした。
「ふふふふ。どうだ、苦しいか」
マスクの下からひびいてくるその声!
「あっ、貴様は怪塔王だな。こほん、こほん、こほん――」
帆村は、岩の上にたおれて、はげしく咳《せき》をします。貴様は怪塔王だなと叫んだその声は、まるでのどをやぶって出てきたような細いしゃがれた声でありました。
大利根博士が、いつの間に怪塔王の声色《こわいろ》をつかうようになったのでしょうか。
博士は、いやに落着きはらって、転げまわっている帆村のそばへやってきました。
「こればかりの薄いガスをくらって、そんなたいそうな苦しみ方をするなんて、なんて弱虫なんだろう。これからの探偵は、ガスマスクぐらい、しょっちゅう持ってあるくがいいぞ」
博士は、靴の先で帆村の体を力まかせにけとばしました。なんというひどいことをする博士でありましょう。
「おい帆村探偵。こんどというこんどは、貴様を殺してしまうぞ。貴様くらい、わしの邪魔をする奴はないからなあ。いままで生かしておいたのを、ありがたくおもえ」
博士は、すっかり怪塔王になりきってしまって、腰のあたりから、銀色の筒をとりだした。どうやらこれは、形のかわった殺人光線灯らしいです。
帆村探偵はどうなりましょうか?
最大の謎
1
洞穴の内の岩礁のうえに争う大利根博士と帆村探偵! 毒ガスが黄いろいもやのように漂っているなかに、怪塔王の声を出す大利根博士は、殺人光線灯を片手に帆村探偵の姿をもとめています。
「あ、そこにいたな」
魚油灯が大きくゆらいで、岩礁のうえに腹匐《はらば》いになっている帆村探偵をみつけました。
もう駄目です。帆村探偵の一命は、風前の灯火《ともしび》も同様です。殺人光線が帆村の方にむけられ、そしてボタンがおされると、もうすべておしまいです。
帆村が岩礁のうえに腹匐いになっていたのは、毒ガスからすこしでものがれるためでありました。下には荒潮がぼちゃんぼちゃんと岩を洗っていまして、そこにすこしばかりの風が起っていました。だから重い毒ガスは、下に溜《たま》ろうとしても、波のためにあおられ、吹きあげられてしまいます。そしてどこを潜《くぐ》って来るのか、一陣の風がすうっと吹いて来るのです。どこまでも沈着な帆村探偵は、こうしたわずかの安全地帯をもとめて、辛《かろ》うじて息をついていたのに、いまや大利根博士の持つ殺人光線灯が、最後のとどめを刺そうと狙っています。
不意に帆村は、ぽんと蹴られました。
「あ、痛!」
思わず彼は、声を出してしまいました。
「ふふふ、まだ生きていたか。いよいよ殺人光線灯を食《くら》って、往生しろ!」
「待て! 最後に、ちょっと聞きたいことがある」
「なんだ。早く言え」
「貴下は大利根博士ですか、それとも怪塔王ですか」
「そんなことは、どっちでもいい。ほら、もう念仏でも唱えろ」
もう余裕はありません。帆村の体は、ごろりと一転して、どぶんと荒潮のなかにおちてしまいました??
2
「あっ、落ちた!」
大利根博士は、思いがけないできごとに、殺人光線灯のボタンをおすことを忘れて、帆村の落ちた荒びる水面をきょろきょろとながめました。
大きな水音は、しばらく洞穴のなかを、わぁんわぁんとゆりうごかしていましたが、やがてそれも消えてしまいました。
「ど、どこへ行ったんだろうか。溺《おぼ》れてしまったのか、それとも渦にまきこまれてしまったかな」
ぼんやり黄いろく光る魚油灯を、海水のちかくへずっとさしだして見ましたが、帆村の頭も見えず、水を掻《か》く音さえきこえませんでした。荒潮のなかに落ちた帆村は、そのままどこかへ姿を消してしまったのです。
とうとう帆村は、浪にのまれて溺れ死んでしまったのでしょうか。それとも何所《どこ》かに生きているのでしょうか? 洞穴のなかを、荒潮は大臼《おおうす》をひきずるような音をたて、あいかわらずはげ
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