あの怪塔王が海辺におとしていった鍵なんです。僕はその鍵を型にして別の鍵をつくって持っていますよ、怪塔の入口も、その鍵であいたのです」
「そうか。ふうむ、それはたいへんな鍵だ。一彦君は、今それを持っているのかね」
塩田大尉は、息をはずませて、ききかえしました。
「持っていますとも。僕はそれをお守のようにしていつもポケットの中に入れているんです」
といって、少年はポケットをさぐって、鍵をとりだしました。それは銅びかりのした大きな鍵で、なるほど握りのところが猿の顔になっているものでありました。
「おお、なるほどこれは見事な鍵だ。では、はまるかどうか、さっそくはめてみようではないか」
塩田大尉は少年からその鍵をうけとって、隅の鍵穴にあててみました。すると鍵は、うまく穴の中にするするとはいりました。
4
猿の鍵は、ついにするすると鍵穴にはいったのです。さあ、この大利根博士の地下秘密室に、これからどんなことがはじまるのでしょうか。
塩田大尉と一彦少年とは、鍵穴の前にかがんで、ちょっと一息つきました。
「うまく鍵がはいりましたが、鍵をまわしてみましょうか」
「うん、うまくはいったね。一体これは何の鍵だかわからないが、まあとにかく鍵をまわしてみよう」
まことに、変な隅っこに鍵穴があるのですから、二人とも、この鍵をまわしたとき、どんなことが起るのか、一向に見当がつきません。
「じゃあ、鍵をまわしますよ、いいですか」
一彦少年は、猿の鍵を右へひねってみました。するとがちゃりと音がして、錠はうまくはずれました。
「錠がはずれた」
「うむ、はずれたか」
二人が顔をみあわせたとたんの出来ごとでありました。どこか地の底で、ごうごうというモートルのまわる音がきこえだしたとおもったら、ぎりぎりぎりと金属のきしる音がして、二人の目の前にある壁全体が、しずかに上へあがっていくではありませんか。
「おや。壁が上へあがっていく」
「うむ、そうか。この壁の向こうに、まだ部屋があるんだ。一彦君、こっちへよっていたまえ。中からなにがとびだすかわからないから――」
塩田大尉は、少年をうしろにかばいました。そしてなおも怪音をたてて上へあがっていく壁をじっと注意していました。
ぎりぎりぎり。
重い扉は、なおも上へあがっていきます。壁の下からは、その奥にある部屋の床がみえてきました。しかしその部屋にどんなものがあるのかについてはわかりません。わかっているのは血痕が中までつづいていたことだけです。
怪しい機械
1
大利根博士の地下秘密室のおもい壁扉は、まだぎりぎりぎりと音をたててあがっていくところです。
新しい科学兵器の研究者として名高い大利根博士は、いまどこへいっているのでしょうか。この前、軍艦淡路にあらわれたきり、誰も博士の姿を見たものがないのです。磁力砲にやられた軍艦淡路の鉄板をたくさん切りとってもってかえった博士は、それをしらべてくれるはずでしたが、博士は本当にしらべているのでしょうか。
一彦少年は、大利根博士のことを、たいへん怪しい博士だとおもっています。塩田大尉は、それと反対にかなり信用しているようです。
どっちが本当か、それはいずれはっきりわかるでしょうが、一彦にしてみれば、いくら秘密の研究をしている学者にしろ、邸内にずいぶん怪しい仕掛をしているのがなにより不審でたまりません。
大利根博士の実験室が、部屋全体エレベーターのように下におりる仕掛になっていたり、またさっきみつけた隅っこの鍵穴に、あの怪塔王のもっていた猿の鍵がぴったりはいったりするところから考えると、大利根博士と怪塔王とは、なんだか深い関係があるようにおもわれます。
その深い関係とは、はたしてどんな関係でありましょうか。
重い壁扉はぎりぎりぎりと上へあがっていきました。そしてとうとう壁だったところが、すっかり開放しになりました。
いまこそ、室内がよくみえます。
おおその部屋は、ちょっとした倉庫ほどもあるひろい部屋です。しばらくあけたこともなかったとみえ、中からはぷーんとかびくさい臭がただよってきました。
「こら、出てこい」
塩田大尉は、暗い部屋に向かって叫びました。しかし室内はたいへんしずかでした。
2
「誰もいないようだ」
塩田大尉は、一彦をふりかえっていいました。
「でも、中が暗くて、よくわかりませんね」
「待った。そこに電灯のスイッチが見える。いまつけるから――」
と、壁の内側にあったスイッチをおしますと、室内は、ぱっと明かるくなりました。
「ほう、あれは何だろう」
塩田大尉は、その部屋の真中に、横だおしになっている妙な機械のそばによりました。
「なんでしょうね」
一彦も、そばによって、その機械を
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