て急行中であるから、ここしばらくがんばるようにと、しらせて来ました。
 小浜兵曹長は、本隊への連絡を、まずりっぱにしとげたわけであります。
 そのとき彼は、急に気がついて、怪塔王のその後の様子はどうであろうかと目を上げてみますと、さあたいへんです。窓から半身をのりだして、手にもった磁力砲の砲口を、しきりに青江三空曹の方に向けているではありませんか。あっ、あぶない。

     3

 怪塔王は、窓から磁力砲を向けて、しきりに青江三空曹の体をねらっています。
 うすむらさきの光線が、空間をつつーっと走りますと、そのたびに、その光線のとおりみちにあたった怪塔の鉄壁から、ぱちぱちと火花が散ります。
 怪塔王の手もとにくるいがあるのかして、さいわいに今までのところ、青江三空曹の体にはあたらず、彼は元気一ぱいで綱をわたっていくのが見えました。
「おお青江、がんばれ!」
 小浜兵曹長は、思わず拳《こぶし》をにぎって、うちふりました。
 しかし、様子をみていますと、今までのところはまあ無事にいきましたが、これから怪塔に近づくにつれて、危険はいよいよ急にふえてまいります。果して、青江三空曹はこの空中の大冒険、ロケット・飛行機間の綱わたりをやりとげるでしょうか。
 麻綱は、ますます燃えあがります。やがて焼けおちるのが、目の前にみえているようです。
 そのとき、目を青江の方に向けなおした小浜兵曹長は、あっとさけびました。
「あっ、火がついた。青江の体に、火がついた」
 さあ一大事です。今の今まで、なんでもなかった青江三空曹の腰のあたりから、白煙がふきだしています。それに気がついたか、青江は綱にぶらさがったまま、しきりに腰をふっています。ズボンが燃えだし、それで体があつくてたまらなくなったのでしょう。
「これはいかん」
 小浜兵曹長の眉が、苦しそうに八の字に寄りました。部下の危難を目の前にみていることは、つらいことでした。
「ははあ、青江は腰の辺《あた》りに、ナイフかなんか鉄でつくったものをぶらさげていたのだろう。それへ怪力線があたって、鉄が真赤になってとけだしたものだから、火が服に燃えついたのだ。こいつは困ったな。ほうっておくとあいつは焼け死ぬばかりだ」

     4

 偵察機と怪塔ロケットをつなぐ一本の麻綱にぶらさがり、怪塔へじりじり近づいていく勇敢な青江三空曹の服が、ぷすぷす燃えだしたのを見て、機上の小浜兵曹長ははっと胸をつかれたようにおもいました。青江をここで焼け死なせてはなりません。といって、とおくはなれたこの機上から、青江三空曹の燃える服にまで手のとどくわけがありません。
「こまったなあ」
 小浜兵曹長は、部下のこの危《あやう》いありさまをにらんで、ぶるぶると身ぶるいしました。なんとかして助けてやらねばならぬ。この様子では、青江の生命はあと十分ともたないであろうと、気が気ではありません。
「こまったなあ――そうだ、このうえは、おれも青江とともに死ぬんだ」
 なにを考えたか、小浜兵曹長は座席のなかをのぞきました。彼は座席の下から、革のふくろにはいった飲水をとりだしました。この革ぶくろを腰にさげると、彼はバンドをとき、座席にぬっとたちあがりました。
 彼はいそいで革ぶくろの上をナイフで切り、小さな穴を三つ四つつくりました。それからこんどは、革ぶくろの底を手ばやく紐《ひも》でゆわえ、その紐のさきを左の手首にしばりつけました。一体彼は、こんなことをしてなにをしようというのでしょう。
 もちろんそれは、部下を助けるための一か八かのこころみだったのです。
 小浜兵曹長の用意はできあがったようです。
 と、見る間に、
「やっ――」
 と、小浜兵曹長はかけ声もろとも、機上から怪塔ロケットにはりわたした麻綱にぶらさがったのです。
 ああついに、麻綱には二人の勇士がぶらさがりました。綱はずっしりおも味をひきうけることになりました。はたして綱はこのようなおも味にたえましょうか、見ればその麻綱は、いまや怪塔の胴をむすんであるところで炎々ともえているではありませんか。

     5

 なんと危い光景ではありませんか。
 怪塔の胴をむすんである麻綱は、炎々ともえさかっており、しかもその麻綱には、わが二人の勇士がぶらさがって、おも味はたいへんふえています。麻綱はいまにも切れそうです。もし麻綱が、怪塔の胴のところからぷすりと切れたら、二勇士の生命は一体どうなるのでしょうか。
 そのとき青江三空曹は、自分の服が燃えているのにやっと気がつきました。
「あっ、こいつはいけない」
 服についた火は、じりじり体を焼きこがして来ます。
火をもみけしたいが、手が両方とも自由になりません。このようなはげしい空気のながれのなかでとても麻綱を一本の手で握り、体をささえることはでき
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