お礼をいってそこを出立しました。
入院
1
怪塔ロケットがしずんだ海面は、あいかわらずわが駆逐艦隊によって、たいへんきびしい見張《みはり》がつづけられていました。また潜水艦や潜水夫までがでて海の中を一生懸命にさがしましたが、怪塔ロケットはどこへいったか、まだ行方がしれません。
捜索隊はいろいろとやり方をかえて、あくまで怪塔ロケットをさがしあてるのだと、はりきっていました。
こちらは一彦少年です。
塩田大尉や救護の人たちのおかげで、山をおりるとすぐ病院にはいり、手あつい治療をうけました。
妹のミチ子へも、さっそくそのしらせがゆきましたので、小さい胸をいため続けていたミチ子は、夢かとばかりよろこびました。そしてお迎えの自動車にのって、何時間もかかって病院に急ぎました。
「ああ兄ちゃん」
とミチ子が病室へかけこむなり、一彦の枕元にかけつければ、一彦は思いのほか元気な顔をもたげて、
「おおミチ子、よく来てくれたね。兄さんの怪我は大したことないんだよ、心配しなくていいんだよ」
「あら、そんなに軽いの。うれしいわ。でも痛むでしょう」
「痛かないよ。すこしちくちくするくらいだよ。あと四五日すれば歩けると、院長さんがいったよ。僕は心配なしだけれど、心配なのは、帆村おじさんだ」
「ああ帆村おじさん! おじさんは、どうして」
「それがねえ、困っちゃったんだよ」と一彦はいいにくそうに、
「僕だけ逃げるのはいやだとおじさんにいったんだよ。だから一緒に逃げようと、いくどもすすめたんだけれど、おじさんは中々聞かないんだ。おじさんはまだこの塔の中でする仕事があるんだといってね、僕いやだったけれど、おじさんのいうとおり一人で報告にかえってきたんだ」
2
「兄ちゃん、帆村おじさんを残して来たことを、そんなに気にしないでもいいわ。誰も、兄ちゃんがいけない子だなんて思う人はなくってよ」
と、ミチ子は兄の一彦をなぐさめるのに一生懸命です。聞くもうるわしい兄妹の仲のよさでありました。
そういうかんしんな兄妹を、こうもくるしめるのは、一体誰のせいでしょうか。いうまでもなく、それは帝国軍艦淡路を怪しい力によって壊し、それから後、いろいろとおそろしいことや憎いことをやっている、怪塔王のせいにちがいありません。
怪塔王と言うのは、一体いかなる素性の人間なのでしようか。いままでに、このことは殆《ほとん》どわかっていません。
一彦とミチ子は、それからのちわずか五日間の短い日数のことでしたが、久万《ひさかた》ぶりに一しょに食事をしたり、歌をうたったり、お話をしたり、また夜は同じ室に枕をならべてやすんだりして、たいへん楽しいことでありました。そのためでもあり、またミチ子の手あつい看護のこともありまして、六日目になると一彦は殆ど普通に歩けるようになりました。ミチ子は一彦が病院の庭を歩く後姿をみまもりながら、うれし涙をこぼしました。
一彦は、もうすっかり元気です。
「さあ、もう大丈夫だ。きょうは塩田大尉が来てくださると言ってたが、もう見えそうなものだね」
「塩田大尉が見えたら、御用があるの」
と、ミチ子は心配そうにたずねました。
「うん、僕はね、塩田大尉と約束がしてあるんだよ」
「約束ってどんなこと」
「約束というのはね、僕を大利根博士のところへつれてってくれると言うことだよ。しかしこのことは、他人に言っちゃいけないよ。帆村おじさんが怒るからね」
そう言っているところへ、当の塩田大尉が軍装もりりしく病室へはいって来ました。
出発
1
「ああ塩田大尉」
「おお一彦君か。おやミチ子さんもいるね。二人ともうれしそうだな――一彦君、よろこびたまえ。今院長さんに聞いて来たんだが、君の傷はもう大丈夫だそうだよ」
三人は、声をあわせてうれしそうに笑いました。
「塩田大尉、僕と約束のこと忘れていませんね」
「え、約束。うむ、あのことか。しかしあのことはまあ、僕にまかせておいて――」
「いやだなあ、あんなことを言っている。僕はどんなにか待っていたんですよ。ぜひお伴《とも》させてください。それが帆村おじさんを救う近道のように思うんです」
塩田大尉は、しばらく無言でいましたが、やがてミチ子に向かい一彦をつれていってもいいかと尋ねました。ミチ子はもちろんそれに賛成しましたのでそれならばと塩田大尉は立ちあがりました。
「僕が心配するわけはいずれわかるだろうが、とにかく変り者の大利根博士のところへいくのは、これでなかなか大仕事だよ」
塩田大尉は二人の頭をなでながら、ほんのちょっぴり、気持を言いあらわしました。大尉は、帆村の言伝《ことづて》を聞いてからのち、いろいろ考えた末、大利根博士を訪問することをたいへん重大に思
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