をぴくりと動かしたりしました。
「塩田さん、だいたいよく見まわりました。一番おもしろいのは、この通風筒ですよ」
といって、博士はそばにたっている通風筒を振返りました。この通風筒というのは、煙管《キセル》の雁首《がんくび》の化物みたいな、風をとおす大きな筒です。それは鉄板でできていましたが、それがまるで大風にふきとばされたようにひん曲り、しかもその上にいくつもぶつぶつと大小の穴があいているのでありました。
「塩田さん、この通風筒をすこしばかり貰《もら》ってゆきますよ。もってかえって、よく研究してみなければならぬ」
そういうと、大利根博士は、白墨をポケットから出して、通風筒の穴のまわりに、丸印だとか三角印だとかをかきました。それから写真機を出して、その部分をいちいちていねいにうつしました。
それがすむと、博士はどこに隠しもっていたのかへんなかたちの鋏《はさみ》をとりだし、鉄でできた通風筒をまるでボール紙をきるかのように、ざくざくざくと切りとりました。
「まあ、よく切れる鋏だこと」
と、ミチ子は、そばからみていて、感心していいました。
すると大利根博士は急にふりかえって、怒ったような顔をしました。
「どうも女の子は、お喋りでいけない」
ミチ子は博士のじゃまをしたので怒られたのだなとおもい、べそをかきました。
すると、そのときミチ子のうしろから、大きな手がちかづいて、その頭をやさしくなでました。
ふりかえってみますと、それは塩田大尉の手でありました。
怪塔はどこ?
1
ミチ子は、軍艦淡路の上で、しきりに妙なことをやって研究をしている大利根博士を、たいへんこわい人だとおもいました。
しかし博士は、ミチ子がなにをおもおうと平気の平左《へいざ》で、なにかさかんに口のなかでぶつぶついいながら、艦内をあるきまわっていました。
検察隊長の塩田大尉は、博士の前にすすみよって、
「大利根博士、あなたはあの怪塔ロケットが、このようなひどいことをやったのち、どこへ行ってしまったとお考えですか」
博士は、ぎょろりと、近眼鏡のなかから眼をひからせ、
「うん、そのことなら、大体見当はついていますわい。やはり、どこか人気のないところでしょうな。海岸とか、山の中とか、そういうところですね」
「博士は、それをはっきり探しあてるにはどうすればよいとお考えで
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