味をこめて、いよいよ最後の決心をかためさせたのです。勇ましいといっても一彦はほんの少年です。ついて来るといって聞かないので、やむをえず一しょにつれてきましたが、これからさきの危険をおもうとき、帆村おじさんの心配はひととおりではありません。
帆村探偵は、階段のすき間から、そっと三階の様子をうかがいました。
部屋のなかには、弱いスタンドが一つ、ほのあかるい光を放っているだけでありました。円形になった室内には、たくさんの本棚がならんでいます。テーブルの上には、わけのわからない機械が組立中のまま放りぱなしになっています。また高い脚のある寝台も見えました。
帆村は、一彦に合図をして、じっと耳をすませました。どこからか、ごうごうという鼾《いびき》のおとがきこえてまいります。
(しめた、怪塔王は、あの寝台のうえで眠っているんだな)
よし、それなら飛びこむのは今だと、帆村はにっこり笑い、一彦をそばへ招くと、そっと耳うちをしました。
3
帆村探偵は、階段の「最後の段」をおどりこえ、床《ゆか》の上にえいと飛びあがりました。そしてさっと照らしつけた手提《てさげ》電灯は、怪塔王のねむる寝台の上へ――
「あっ!」
帆村は思わず、足を一歩うしろにひきました。なぜって、彼は寝台の上にかかっている薄い羽蒲団《はねぶとん》の間から怪塔王の目がじっとこっちをにらんでいるのを発見したからです。はじめて見る怪塔王の顔――ああ、なんという変な顔もあったものでしょう。
帆村はピストルを怪塔王の目に狙《ねらい》をつけ、もし相手がうごけば、すぐさま引金をひく決心をしていました。
ところが、ごうごうごうと、どこからか、たしかに寝息らしいものが聞えてきます。
(変だな)
すると後からついてきた少年が、寝台をゆびさし、
「おじさん。怪塔王は目をあけたまま眠っているんだよ」
「ふーむ、そうかね」
ほんの僅《わず》かの話声でありましたが、それが人間ぎらいの怪塔王の耳に入ると、彼はがばと寝台から跳ねおきました。
「ああーっ、よく眠った」
と、両手をあげたところを、帆村が、
「動くな。動くとうつぞ。手をあげたままでいろ。下すとうつぞ」
と叫べば、怪塔王ははじめて気がついて、はっと首をすくめました。そしてあの滑稽な顔を、そろそろと帆村の方に向け、
「お前は誰じゃ――おや、いつも塔の前でうろう
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