議がってテレビジョンを方々へまわしてみましたが、なんの変ったこともありません。ただ塔の前に、大きな木箱が二つ落ちているばかりでした。そして積荷をおとした馬車が向こうへゆくのも見えます。
「なんだ、ばかばかしい。あの箱が落ちた音だったか。ああねむいねむい」
 と、怪塔王はまた寝床にもぐりました。

     3

 二つの木箱がそろそろと塔の入口にむかって匍《は》いだしたときには、怪塔王はテレビジョンを消して、もう寝床の中にはいったあとでありました。
 もっと永く起きていれば、このそろそろ動く怪しい木箱が目にうつったかも知れないのです。怪塔王にとっては珍しい大失敗でした。
 二つの木箱は、塔の入口にぴったりとよりそいました。
 すると木箱はすうと持ちあがり、箱の下に二本の足がにょきりと生《は》えました。二つの箱ともそうなのでしたが、一方の箱の足は長く、もう一つの箱の足は短くて細くありました。
 そのうちに、長い足の生えた木箱の横腹に、円い穴がぽかりとあきました。
 しばらくすると、その穴の中から一本の手がにゅうと出てきました。
 その手は、しきりに入口の扉をさぐっています。よく見ると、その手は大きな鍵をにぎっているではありませんか。大きい鍵です。もし近づいてよく見た人があったら、その鍵の握りのところに猿の彫りものがついているのがわかったでしょう――といってくれば、この箱から生えている手の持主が何者であるか、そろそろおわかりになったでしょう。
 そうです。この大きな箱の中には、帆村荘六探偵がはいっていました。そしてもう一つの小さい箱の中には一彦少年がはいっていました。
 二人は、怪塔王の目をくらますために、こうして底のない箱にはいったり、馬車をやとったりしたのでありました。
 いまや、鍵を握った帆村探偵の手は、鍵穴にとどきました。鍵はすいこまれるように鍵穴にはいりました。
「さあしめた!」
 鍵をまわすと、がちゃりと錠は外れました。二人はもう大よろこびです。かぶっていた箱を表に放りだすと、すばやく塔の中にとびこみ、ぴたりと入口をしめました。
 はじめてはいった怪塔の中!


   螺旋《らせん》階段



     1

 怪塔の中は、まっくらです。
 帆村探偵と一彦少年とは、用意にもってきた懐中電灯をぱっとつけました。あたりを照らしてみるとそこはまるで物置のように、な
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