かしこうしていれば、飛行機も兵曹長も、だんだんスピードを増して下におち、やがては地上にはげしくぶつかるでしょう。
 兵曹長も、前からそれに気がついていました。綱のゆるくなったのを幸いと、兵曹長は今だとばかり満身の力を腕にあつめて、綱をよじのぼりはじめました。

     2

 部下をうしなったかなしみと、はげしい風力とにたえながら、わが勇士小浜兵曹長は満身の力をこめ、えいえいと綱をのぼってゆきます。
 幸いと、こういう綱のぼりは、艦上でうんときたえてある兵曹長です。彼はみるみる上にのぼっていきました。飛行機の腹が、もうすぐそこに見えます。
 そのころまで水平をたもっていた飛行機は、急に翼をかたむけました。やがてまっさかさまになっておちるものと思われます。そうなると、墜落のスピードはたいへんはげしくなるでしょう。
(はやくのぼりきらないといかん!)
 兵曹長は、いまはこれまでと、ありったけの力を出して、うんうんと綱をのぼっていきました。
 うれしや、兵曹長の頭が、飛行機の腹にごつんとあたりました。
(しめた。もう一いきだ!)
 小浜兵曹長の勇気は百倍しました。
 飛行機の座席に、手がとどきました。
(さあ、ついに戻って来たぞ!)
 こうなれば、兵曹長万歳です。彼はお得意の器械体操のやりかたで、
「えーい」
 と、操縦席におどりこみました。そこは青江三空曹の乗っていた席です。
 もちろん青江の姿は見えません。小浜兵曹長の胸に、また熱いものがぐっとこみあげて来ましたが、いまは生死のさかいです。それをふりはらうようにして、すばやく青江ののこしていったバンドで自分の腰をしばりつけました。
(さあ、これでいい。こんどは操縦だ)
 兵曹長は、そのとき、機体が機首を下にして、きりもみになっておちているのに気がつきました。このままでは、地上にはげしくぶつかるばかりです。いそいで水平舵を力一ぱいひくと、うれしや、機首がぐっとあがりました。
 もう大丈夫! 兵曹長は命をひろいました。

     3

 ひとり機上にかえった小浜航空兵曹長の胸の中は今は亡き青江三空曹のことで、はりさけるようです。
 さっきまで、この機上に一しょにのっていたのでした。そして、たがいにはげましあいながら、怪塔ロケットを追いかけ、怪塔王とたたかって来たのでした。その勇しい戦友のすがたは、もはや機上に見られない
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