えだしたのを見て、機上の小浜兵曹長ははっと胸をつかれたようにおもいました。青江をここで焼け死なせてはなりません。といって、とおくはなれたこの機上から、青江三空曹の燃える服にまで手のとどくわけがありません。
「こまったなあ」
 小浜兵曹長は、部下のこの危《あやう》いありさまをにらんで、ぶるぶると身ぶるいしました。なんとかして助けてやらねばならぬ。この様子では、青江の生命はあと十分ともたないであろうと、気が気ではありません。
「こまったなあ――そうだ、このうえは、おれも青江とともに死ぬんだ」
 なにを考えたか、小浜兵曹長は座席のなかをのぞきました。彼は座席の下から、革のふくろにはいった飲水をとりだしました。この革ぶくろを腰にさげると、彼はバンドをとき、座席にぬっとたちあがりました。
 彼はいそいで革ぶくろの上をナイフで切り、小さな穴を三つ四つつくりました。それからこんどは、革ぶくろの底を手ばやく紐《ひも》でゆわえ、その紐のさきを左の手首にしばりつけました。一体彼は、こんなことをしてなにをしようというのでしょう。
 もちろんそれは、部下を助けるための一か八かのこころみだったのです。
 小浜兵曹長の用意はできあがったようです。
 と、見る間に、
「やっ――」
 と、小浜兵曹長はかけ声もろとも、機上から怪塔ロケットにはりわたした麻綱にぶらさがったのです。
 ああついに、麻綱には二人の勇士がぶらさがりました。綱はずっしりおも味をひきうけることになりました。はたして綱はこのようなおも味にたえましょうか、見ればその麻綱は、いまや怪塔の胴をむすんであるところで炎々ともえているではありませんか。

     5

 なんと危い光景ではありませんか。
 怪塔の胴をむすんである麻綱は、炎々ともえさかっており、しかもその麻綱には、わが二人の勇士がぶらさがって、おも味はたいへんふえています。麻綱はいまにも切れそうです。もし麻綱が、怪塔の胴のところからぷすりと切れたら、二勇士の生命は一体どうなるのでしょうか。
 そのとき青江三空曹は、自分の服が燃えているのにやっと気がつきました。
「あっ、こいつはいけない」
 服についた火は、じりじり体を焼きこがして来ます。
火をもみけしたいが、手が両方とも自由になりません。このようなはげしい空気のながれのなかでとても麻綱を一本の手で握り、体をささえることはでき
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