こうして手をこまぬいて見ているなんて、なさけないことだなあ」
 と、小浜兵曹長は歯をばりばりかんで、ざんねんがっています。
「小浜兵曹長」
 青江三空曹がよびかけました。
「なんだ、青江」
「ぜひお許しねがいたいことがあります」
「なんだ、なにを許せというんだ」
「それは、つまり――あの麻綱をつたって、怪塔ロケットの中へとびこもうというのです」
「ええっ、なんだって。麻綱をつたっていって、あの怪塔を拿捕《だほ》するというのか。貴様、えらいことを考えだしたな、ううむ」
 さすがの勇猛兵曹長も、若い青江三空曹の考えだしたおどろくべき怪塔占領の計画にはびっくりして、ううむとうなりました。
「よし、では青江。綱わたりをやってよろしい」
「おお、お許しが出ましたか。私はうれしいです」
「うん、大胆にやれ、あせっちゃいかん」
「麻綱はさかんに燃えだしました。では、すぐ綱にとりついてのぼります」
 若武者青江三空曹は、バンドをはずすと、席をとびだしました。そしてあっという間もなく、青江機と怪塔ロケットをつなぐ麻綱に、ひらりととびつきました。

     2

 青江三空曹の、空中の冒険がはじまりました。
 綱にぶらさがって渡るのは、大得意でありましたが、なにしろ空中を猛烈なスピードでとんでいる綱をつたわるのですから、なまやさしいことではありません。ともすればひどい風の力で、体はふきとばされそうになります。
「青江、しっかりやれ」
 小浜兵曹長は、偵察席の上から腕をふりあげて、青江をはげましました。
 青江三空曹は、それに対して、かすかに頭をふって上官へあいさつをしました。
 二メートル、三メートルと、青江の体はすこしずつ向こうへうごいていきます。
 小浜兵曹長は、この勇ましい若武者のはたらきをすぐさま本隊あてに、無電で報告いたしました。
 すると折《お》りかえして本隊から、
“わが帝国海軍戦史のあたらしき一ページは、青江三空曹のこのたびの壮挙により、はなばなしくかざられたり”
 と、光栄にみちた感状の無電がとどきました。
 これをうけとって、小浜兵曹長は、わがことのようによろこび、
「おい青江、司令官から感状だ!」
 とさけびましたが、夢中に綱をわたっている青江三空曹には、きこえた様子もないのは、ざんねんでありました。
 それにつづいて本隊からは、新手の攻撃機隊がいま現場にむかっ
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