かなかくわしいものです。
 怪塔王が顔をひっこめたのは、また何か偵察機の方へ危害をくわえるつもりであろうと思われましたが、はたして間もなく、偵察機のエンジンの調子が怪しくなって参りました。
「青江三空曹、なんだかエンジンがとまりそうじゃないか。がんばり方が足りないぞ」
「そうじゃないんです。がんばっていますが、エンジンが言うことを聞いてくれません。まだ参るには早いのだが、変ですね」
「そうか、さては――」
 と、小浜兵曹長は気がついて、怪塔ロケットの方を睨みつけました。まさしくあの怪塔ロケットから出す例の怪力線が、こっちのエンジンの息の音をとめようとしているらしい。
 さっそく危険信号が、小浜兵曹長の手によって、本隊へむけ発せられました。
「怪塔ロケットの発する怪力線によって、エンジンがとまりそうだ。これ以上の追跡は、あるいはむずかしいと思う」
 すると本隊の方から、折かえして入電がありました。
「あと三十分、がんばれ。こっちでも、救援隊を手配しているところだ」
 あと三十分がんばれ! エンジンのこの調子ではその三十分が、うまくもつかしら。


   奇計



     1

 あと三十分がんばれ!
 怪塔ロケットを追う青江機の上で、偵察士の小浜兵曹長は歯がみをしました。
 青江三空曹の、人間わざとは見えないがんばりぶりにもかかわらず、エンジンの調子は、重病人の眼のようにわるくなるのでありました。
(怪塔ロケットにせっかく追いついたのに、このままでは、ぐんぐん遅れてひきはなされてしまう)
 どうにかして、あくまで怪塔ロケットにおいすがっていきたいものだと思った小浜兵曹長は、いろいろあたまをひねって、計略をかんがえました。
 そのときに小浜兵曹長のあたまにうかんだことがありました。それは、愛機に積んでいる長い綱のことでありました。これは救助作業のときにつかうもので、どの軍艦も持っている丈夫な麻綱でありました。
 兵曹長は、その綱の一番端に鋼鉄でつくってある錨《いかり》をむすびつけました。その錨は、西瓜《すいか》ぐらいの小型のものでありました。
 兵曹長は、それをつくりあげると、青江三空曹に彼のすばらしい計画をうちあけました。青江三空曹は、まったくおどろきました。しかし只今のところこうした試みでもしないかぎり怪塔ロケットのごく近くに三十分間もくっついていることはむずか
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