帆村荘六おじさんを弥次《やじ》りました。
すると帆村探偵はにやりと笑って、
「うふふふ、ずいぶん弱虫に見えたろうね。それでいいんだよ。あの怪塔の大将は、なにかテレビジョンのような機械をつかって、僕たちが忍びよったところを、手にとるようにはっきり見ているんだ。ところが、こっちには向こうの大将が見えないんだから、喧嘩《けんか》にならないじゃないか。あんなときには、こっちが弱虫で、すっかり腰をぬかしたように見せておくと、向こうは本当に自分が勝ったんだと思って安心するんだ。そこで向こうが油断をする、そこを覘《ねら》って、こっちが攻めていく、どうだ、いい考《かんがえ》だろう」
「へえー、では帆村おじさんは、それほど弱虫ではないんだね。そうとは知らなかったから、さっき僕は、がっかりしちゃったよ」
帆村はまたにやりと笑いました。
「さあ、そこで一彦君、こんどはいよいよ怪塔を攻める方法を考えるんだ。一体どうしたらあの塔の中にうまく忍びこめるだろうか」
「さあ――」
これには一彦も弱ってしまいました。
2
一体どういう風にやれば、あの怪塔の中にしのびこめるでしょうか。
あの聳《そび》えたった高い塔を、どこから攀《よ》じのぼればいいのでしょうか。
入口の扉には、錠《じょう》がおりています。
いや、そればかりではないのです。塔の近くへよると、怪塔王はそれをすぐ知ってしまいます。なにしろ、塔の三階にいて、入口の附近の様子がありありと見えるテレビジョン機械をもっているのですもの。
そう考えてくると、怪塔の中に忍びこむには二重三重のむずかしい問題があります。
「どうだね、一彦君。いい考がうかばないか」
「僕、なにもわからないや」
「なにもわからないようじゃ駄目だねえ。もっと考えなくちゃ」
「おじさんは何か考えているの」
「うん、おじさんも実は困っているんだが、とにかく昼間行くと怪塔王に見られてしまうから、夜になって近づくのがいいということはわかるよ」
「なるほど、おじさんはえらいや。それからのちはどうするの」
「それからのちは――困っているのだ」
「おじさん、梯子《はしご》か竹竿《たけざお》をもっていって、一階の窓にとりつきガラス窓をこわしてはいってはどう」
「それは駄目だ。さっき窓をよく見てきたんだが、ガラス窓の外にはもう一枚鉄の扉がしまるようになっている。夜に
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