官の命もですね、どっちも心配しておりません。そもそも私の飛行機にお乗りになったということがですね、上官の不運なのであります。それとも――」
「なんじゃ、それともとは――」
「いや、どうも私は夢中になって自分の思っていることをしゃべるくせがあっていけません。なんですか、上官は命がおしくなられたのでありますか」
「ばかをいえ。俺が若いときには、貴様より三倍も命がおしくなかった」
「今は?」
「今か。今は十倍も命がおしくない。だから、貴様そうやってがんばって操縦しているが、俺の目から見れば、まだまだがんばり方が足りんな」
これをきいて、青江三空曹の顔は、赤いほうずきのようになりました。
3
(まだがんばり方が足りない。おれなら、もっとがんばるんだが――)
と、小浜兵曹長にからかわれて、青江三空曹は怒ったの怒らないのと言って、うれすぎたほおずきのように赤かった顔が、逆に青くなりました。
「これだけがんばっているのに、まだがんばり方が足りないと言うのか。兵曹長に甘く見られちゃ三空曹の名おれだ。ようし、そんなら大いにやるぞ。死んでもやる。向こうをひょろひょろ飛んでいく怪塔ロケットに、この飛行機をぶつけるまでは、おれはどんなことがあってもスピードをゆるめないぞ。あの怪塔ロケットの野郎め、こうなっては逃げようとしても、誰が逃すものか」
青江三空曹は、武者ぶるいをしながら、怪塔ロケットを睨んで、猛然とスピードをあげました。彼の眼尻《まなじり》は、いまにもさけそうに見えます。
小浜兵曹長は、うしろからそれを見ていて、にっこり笑いました。
兵曹長は、わかい青江三空曹のことを、いじわるくからかったのではありませんでした。なにしろ相手は怪塔ロケットです。尋常一様のことでは、とても追いつけません。がんばり青江と言われる青江三空曹のがんばり方でも、まだまだ足りないと思ったので、思いきって彼を怒らせてしまったのです。
兵曹長のこの計画は、すっかり的にあたりました。少年航空兵あがりの若い青江三空曹は、それこそ人間業とは思えないほどの名操縦ぶりを見せて、ともすれば見おとしそうになる怪塔ロケットのあとを、一生けんめいにおいかけています。
ある時は密雲のなかに途方にくれ、またある時は急旋回をして方向をかえたり、ものすごい追跡ぶりです。
いくたびか見失おうとして、それでもやっと
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