なしです。一体どっちがほんとうの怪塔王でしょうか。
「なにがインチキなものか、貴様こそ偽《にせ》ものの怪塔王だろう。くやしかったら、貴様が顔をつつんでいる風呂敷をとって、黒人やわしに、貴様の地顔を見せろ」
「ば、ばかな!」
 と言いすてましたが、声の怪塔王は、そのあとで、うーんと呻《うな》っています。よほど弱っているものと見えます。
「さあ、もういいだろう。そのへんで降参したがいいじゃないか」
「いやだ。天下無敵の怪塔王が、貴様のようなインチキ野郎に降参したり、この大事な怪塔をとられたりしてなるものか」
 と、声の怪塔王はあくまで降参を承知しませんでしたが、そのうちに彼は急に何事かに気づいたという風に、
「おお、そうだ。貴様の空《から》いばりは勝手だが、この怪塔は、そういつまでも深海の底にじっとしていることは出来ないんだぞ。ある時間が来ると、自然爆発をするようになっているんだ。貴様は、それでも驚かないと言うのか」

     3

『声』の怪塔王と『顔』の怪塔王とは、機械を中にはさんで、やはり睨みあっています。いまはどっちも機械の方に近づくこともできず、そうかと言って後へさがることもできません。どうしてもここで相手を降参させてしまわないと、食事をとることさえもできないのです。
 どっちの怪塔王も、もう何食もたべないので、おなかはぺこぺこです。
 黒人はどっちにつこうかと困っていますが、おなかの方は大丈夫です。なぜって黒人は、長期にわたって円筒のなかに暮せるようにと、あらかじめ食料品と水をもちこんでいました。ちょうど長距離飛行のときの、飛行士のような生活をしていたのです
 だんだん疲れて来るのは、二人の怪塔王です。
『声』の怪塔王は、『顔』の怪塔王をおどすように、(もう海底にながくいられない。やがて怪塔は爆発するであろう)と言って、降参をすすめましたが、『顔』の怪塔王はいっかな降参をしようとは申しません。一体どうなることでしょう。
「おい、がんばらないで、わしのいうところに従え。この怪塔が爆発して、みんながここで死んでしまっては、何にもならないじゃないか」
 と、『声』の怪塔王はなおもくどきます。
「僕は爆発なんぞ平気だ。怪塔とともに、ここで粉々にくだけてしまっていいとおもっている」
「それは無茶《むちゃ》だ。命は一つしかない」
「貴様はそんなに命がおしいのか」
 と
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