った」
 そういって塩田大尉は、機械のこっちから大利根博士の名をくりかえしよんでみましたところ、三度目になると、はたして蓄音機の中から(ああ、うるさい……)と、博士の声がとびだしてきました。一彦はおどろいて、目をまるくするばかり。――

     4

 大利根博士の研究室に、博士の姿はどこにもなくて、ただ博士の声が飛出して来る蓄音機だけがあったのです。
 じつになんという変な仕掛でしょう。
 一体この変な仕掛は、なんのためにこうして博士の室内につくられてあるのでしょうか。またこの仕掛をつくったのは、誰なのでありましょうか。
「どうも変ですね。塩田大尉、これはきっと博士が人と口をきくのがいやなので、こんな仕掛で、来る人をみなおっぱらっているのではないでしょうか」
「うん、一応はそうも考えられるね。だが一彦君、一方ではこういうふうにも考えられはしないだろうか。つまり、大利根博士は、この研究室にたてこもっていると見せかけるため、わざわざこうした仕掛をしておいたとね」
 なるほど、そういう場合もあるだろうと、一彦は大尉の考えに感心しました。
「でも、博士ともあろう人が、なぜそんなややこしいことをするのでしょう。いるならいる、いないならいないと正直に人にしらせるのが本当なのに、そんな不正直なことを博士がするでしょうか」
 一彦はあくまで博士がえらい人だと信じていたから、こう申しました。
 塩田大尉は、一彦の言葉をじっと考えていましたが、やがて一彦の顔を見ながら、すこし言いにくそうに、
「ねえ一彦君、私はどうもちかごろ博士のすることに、腑におちない点があるのだよ。それに帆村君からの言伝《ことづて》にも、博士に必ず会って見ろとあったではないか。帆村君も博士に気をつけろというつもりでそう言ったのではあるまいか」
 一彦はなぜ、塩田大尉がそう言うのか、はっきりのみこめませんでした。早くもその顔色を見てとった大尉は一彦の肩を叩き、
「さあ、元気を出して謎にぶつかって見ようではないか、博士にはすまないが、まずこの室内をよくさがして見よう」


   顔の怪塔王



     1

 お話はかわりまして、ここは皆さんおまちかねの怪塔の中です。
 あれ、怪塔はまだちゃんと形がのこっていたのかとお尋ねになるのですか。そうです。怪塔はまだちゃんとしていましたよ。
 塩田大尉の指揮する飛行隊に
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