達しはしまいと思っていたのです。
 ところがどうでしょう。間もなくふもと村の中から一本の煙がむくむくと、風のない空に、まっすぐ立ちのぼりはじめました。
「おやおや、村でも煙火みたいなものをあげたぞ。こっちの真似をする気かしら」
 と爺さんが目をみはっているうちに、その村の煙火が、下の方から長短の符号どおりに切れはじめたのですから、爺さんは大びっくり、紙きれにその符号をうつし始めました。
 一体村の煙火は、山の中へ向かって何を伝えているのでしょうか。


   塩田大尉のお迎え



     1

 ふもと村から、煙の信号がたちのぼるのが見えます。一彦少年は炭やき爺さんの手をかりて、その信号の見えるところまで、傷ついた体をうごかしてもらいました。
 ふもと村からの信号は、どんなことを伝えて来たのでしょうか。
「シオダタイイガムカエニイク」
 塩田大尉が一彦をむかえにいくというのでありました。塩田大尉のところへ、どうしてそんなにはやく知れたものかと、一彦は夢のようにおどろきましたが、このとき塩田大尉は、ちょうど飛行基地から警察電話で、このふもと村へ昨日以来、何か聞きこんだことかまたは変ったものを見なかったかと、問いあわせ中であったので、それならば今、裏山からこうこういう煙の信号があがっているところで、塩田大尉に知らせてくれといっていますよ、というわけで、たいへんうまく塩田大尉と話がついたのであります。
「ああうれしい。塩田大尉が来てくださる。僕、うれしいなあ。大尉に会うことができたら、僕はすぐ帆村おじさんからの言づてを話して、一刻も早く怪塔征伐をやってもらうのだ。――大尉はどうしてこの山の中まで来るかしら。やっぱり飛行機で来るのかしら」
 と、一彦は急にたいへん元気づきました。これを見ていた炭やき爺さんも、これなら自分も骨おりがいがあったと大よろこびです。
 それはちょうど、おひる前の十一時ごろでありました。一台の飛行機が、東の方の空から近づいて来ました。飛行機は、一彦たちのあたまの上まで来ました。一彦は寝そべったまま白布《はくふ》を手にして振り、爺さんはしきりに炭焼竈の煙をさかんにあげて飛行機の方に相図《あいず》をしました。
 その相図が通じたのか、その飛行機はぐるぐる旋回をはじめながら、しだいに高度をさげてまいります。千メートルから九百、八百、やがて五百メートルと
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