ある。たとえばカロニウムとかガンマリンなどは、地球にないすごい放射能物質で、ともにラジウムの何百万倍の放射能をもっている。こんな貴重な物質がどんどん採取できれば、じつにありがたいからね。それを使って人類はすごい動力を出し、すごいことができる」
「そんなら国営かなんかで、うんと宇宙採取艇をだすといいですね」
「うん。だがね、そういう貴重な宇宙塵は、なかなか、かんたんには手に入らないんだ、何千か何万かの宇宙塵のなかに、ひとかけら探しあてられると、たいへんな幸運なんだからね。宇宙採取艇で乗り出すのは、昔でいうと、金鉱探しやダイヤモンド探しいじょうに、成功する率はすくないんだ。宇宙塵採取やさんは、世界一のごろつき連中だと悪口をいわれるのも、このように貴重な宇宙塵を見つけだすことがたいへんむずかしいからだ。まあ、そんなところで話はおわりさ」
帆村荘六の説明は、三根夫をかなり、ふあんにおとしいれたようであった。三根夫は、眉《まゆ》をよせていった。
「じゃあ、おじさん、これからぼくたちが出会うことになっているギンネコ号も、やっぱり宇宙のごろつきなんですね。すごい連中が乗組んでいるんですね」
そういうすごい連中と、こんなさびしい宇宙でであうなんて気持のいいことではないと、三根夫は思ったのだ。
すると帆村がいった。
「いや、宇宙採取艇のみながみな、ごろつきだというわけではない。それにギンネコ号なら、たぶんこのおじさんの知っている鴨《かも》さんという艇長が乗組んでいるはずで、あの人は、けっしてごろつきではない」
それを聞いて三根夫は、やっと安心した。
宇宙のめぐりあい
はてしれぬ広々とした暗黒の宇宙だ。その宇宙のなかの一点においてめぐりあう二組の宇宙旅行者だった。
救援艇隊では、テッド隊長の命令によって、各艇の外側に照明をうつくしい七色の虹のような照明にかえた。各艇は輪になって、そのまん中にギンネコ号を迎える隊形をとった。
相手のギンネコ号の方は、そんなはでなことをしなかった。艇首に三つばかりの色のついた灯火《とうか》をつけ、『ワレ、貴隊ニアウヲ喜ブ』という信号をしめしただけであった。そしてひどく型の古い艇身に、救援隊側からのサーチライトをあびながら、輪形編隊《りんけいへんたい》のなかにとびこんできたが、そのかっこうはなんとなくきまり悪そうに見えた。
ギンネコ号が、いったん救援艇の輪のまん中を通りぬけると、こんどは救援隊はあざやかに大きく百八十度の大旋回をして、ギンネコ号のあとを追った。そしてやがてそれに追いついて、再びまえのようにギンネコ号をまん中にはさみ、救援艇九台がそのまわりをとりかこんだ。
そうほうのスピードは、ずんと低いところにたもたれた。こういうかっこうでゆっくりと暗黒の宇宙をただよいながら話をしようというのであった。
隊長テッド博士は礼儀正しい人物であったから、ギンネコ号の艇長にたいし無電をもってていちょうなあいさつを送ったうえ、失踪《しっそう》した『宇宙の女王《クィーン》』号のことについていろいろと貴艇の知っておられるところをおうかがいしたいから、こちらから副隊長のロバート大佐外四名の隊員を貴艇へ派遣することをゆるされたい。そのように申し送った。
これにたいするギンネコ号からの返事はかなり手間どった。救援隊の若い者は、ギンネコ号にたいし、なぜはやく返事をよこさないのかとさいそくの無電を打ちたがったことは一度や二度ではなかったが、テッド隊長は、まあ、まあ、そう相手をいそがせないほうがよかろうと、さいそくの無電を打たせなかった。
三十分もしてから、やっとギンネコ号からの返事がきた。
「本艇は、有力な資料をほとんど持っていない。貴隊から使者のくるのはさしつかえない。ただし五名は多すぎるから、三名にしてもらいたい」
この返事を記した受信紙の周囲にあつまった若い者は、ギンネコ号の無礼にふんがいし、こちらから送る使者のかずに制限をくわえるのはどういうわけかと、ねじこもうと叫んだ者もあったほどだ。だがこれもテッド隊長のことばによってようやくしずまって、それから三名の使者の人選が発表された。
それによると、第一は副隊長のロバート大佐、第二にポオ助教授。この人は、『宇宙の女王』号の艇長であるサミユルの門下生のひとりだ。それから第三に、みんなを意外におもわせたが、帆村記者がえらばれた。
これを聞いた三根夫少年は、帆村荘六の横《よこ》っ腹《ぱら》をつっつき、
「おじさんはいいなあ。うらやましいなあ」
といったが、帆村は笑いもせず怒りもせず、無神経な顔つきで、首を微動もさせなかった。
「それではこれから三名にでかけてもらおう。なにかお土産《みやげ》を持っていってあげたがいいね。新聞と雑誌と、それから果物をいく種類か」
テッド隊長は、こまかく気をつかった。
一行はでかけた。
司令艇の側壁《そくへき》の一部が、するすると動きだしたと思うと、それは引戸のように艇の外廓《がいかく》のなかにかくれ、あとに細長い楕円形《だえんけい》の穴がぽっかりとあいた。
するとまもなくその穴から、円板《えんばん》のようなものがとびだした。それは周囲から黄色い光りを放ちまるで南京花火《ナンキンはなび》のようにくるくるまわって、闇をぬって飛んだ。
これは円板式の軽ロケットで、汽船が積んでいるボートにあたるものだ。くるくるまわっているのはその周囲のタービンの羽根のような形をしたところだけで、まん中のかなり厚味のあるところは廻らない。その中にこの円板軽ロケットの乗組員たちや三名の使者がはいっているのだった。
ぱっぱっと黄色い光りの輪のまわるのを見せながら、円板ロケットは大きい弧《こ》をえがいたあとで、調子よくギンネコ号のうしろから近づいていった。ギンネコ号は知らん顔をして飛びつづけている。しばらくの間、円板ロケットはギンネコ号の下に平行になって飛んでいたが、そのうちに円板ロケットからは、ぽんと引力いかり[#「いかり」に傍点]がうちだされた。
それは円板の中央あたりからとびだしたものであるが、樽《たる》のような形をし、うしろに丸い紐《ひも》のようなものをひっぱっていた。
しかしこれを見ると、紐ではなくて伸びちぢみのする螺旋《らせん》はしご[#「はしご」に傍点]であった。その先についている大樽みたいなものは、艇内から送られる電気力によって、相手のギンネコ号の艇壁《ていへき》にぴったり吸いついた。この引力いかり[#「いかり」に傍点]は、すごい吸引力を持っていて、艇内で電気を切らないかぎり、けっして相手から放れはしないという安心のできる宇宙用のいかり[#「いかり」に傍点]であった。
これでギンネコ号は、側壁の扉を開かないわけにゆかなかった。
すると円板ロケットの中から、三人の人影があらわれ、やや横に吹き流れた螺旋《らせん》はしご[#「はしご」に傍点]の中を上へのぼっていった。そしてはしごをのぼりつめると、ギンネコ号の横っ腹にあいた穴の中へもぐりこんでいった。
このありさまは、救援隊の僚艇から集中するサーチライトによって、はっきりと見えた。そしてその三人の人影が、ものものしい宇宙服に身をかためていることも、双眼鏡でのぞいた人々の目にはうつった。
よくばり事務長
「ものものしいかっこうですが、お許しください」
円板ロケットから、ギンネコ号の中へ乗り移ったロバート大佐は、うしろにしたがうポオ助教授と帆村とのほうへ手をふりながら、ギンネコ号の人々にあいさつをした。
そこは三重の扉を通りぬけたあとの、ふつうの大気圧の部屋であったから、ギンネコ号の人たちはふつうのかっこうをしていた。かれらは日本人ばかりではなかった。むしろ日本人はすくなく、その他の国々の人が多く、まるで人種の展覧会のようにも見えた。
「そのきゅうくつなカブトをおぬぎなさい。それからその服も……」
そういったのは、やせて背の高い白毛の多い東洋人だった。どこからくだ[#「らくだ」に傍点]に似ている。
「いや、はなはだ勝手ですが、このままの服装でお許しねがいます。脱いだり着たりするのには、はなはだやっかいな宇宙服ですから」
と、ロバート大佐は釈明《しゃくめい》をしてから、じぶんの名を名乗り、ふたりの随員《ずいいん》を紹介した。そして、
「あなたは艇長でいらっしゃいますか」と聞いた。
するとらくだ[#「らくだ」に傍点]に似た東洋人は、首を左右にふって、
「いや、わしは艇長ではありません。事務長のテイイです」
「ははあ、事務長のテイイさんですか。それで艇長に、お目にかかりたいのですが……」
「艇長はこのところ病床《びょうしょう》についていまして、お目にかかれんです。それで艇長はその代理をわたしに命じました。ですからなんなりとわたしにいってください」
そういうテイイ事務長のことばに、ロバート大佐はふまんの面持でうしろの随員のほうへふりかえった。
「すると、ご持病で苦しんでいられるのですか」
そういって聞いたのは帆村だった。
「ええ、そうなんです」
事務長は、するどい目でちらりと帆村の顔をぬすんで答えた。
「胆石病なんですね」
「胆石病――ああ、そうです、胆石病です。あの病気、なかなか苦しみます」
事務長のことばに、なぜかあわてたようなところがあった。
そこでロバート大佐は『宇宙の女王』号のことについて、事務長の知っているかぎりのことを話してくれとたのんだ。
「当局からの依頼の無電によって、わがギンネコ号は、ばくだいなる損失をかえり見ず、指定されたその現場へ急行したのです。それには正味《しょうみ》三十五日かかりましたよ。しかもそれからこっちずっとこのあたりを去らないで、あなたがたのおいでを待ったわけですから、本艇はじつに二百日に近いとうとい日数を、なんにもしないでむだにおくったのです。この大きな損失は『宇宙の女王』号の持主か当局かがかならず弁償《べんしょう》してくれるんでしょうね」
テイイ事務長の話は、女王号のことから離れて、じぶんの艇のうけた損失にたいするつぐないを要求する強い声にかわった。
ロバート大佐は、不快をしのんで、それはとうぜん弁償されるでありましょうと答え、そしてこのギンネコ号が現場へきて何を見たかについて話してくれるよう頼んだ。
「それは話さんでもないがね、弁償のことが気になってならんのだ」
と事務長はうたがいぶかい目で大佐を見すえてから、
「この現場へきたが、わたしたちは『宇宙の女王』号の姿を発見することができなかったし、そのほか、その遺留品《いりゅうひん》らしい何物をも見つけることができなかったのです。といって、けっして捜査の手をぬいたわけではない。いく度もいく度も、おなじところをくりかえし探したのだが、さっぱり手がかりなしだ。まことにお気の毒です」
この話によると、ギンネコ号は何の手がかりをもつかんでいないことになる。大佐の失望は大きかったが、気をとりなおし、
「レーダー《無電探知器》で探してみられなかったですか」と聞いた。
すると事務長は、ぴくりと口のあたりを動かし、ちょっといいよどんだ風に見えた。
「レーダーによっても手がかりなしだった。しかし大佐どの。われわれはレーダーを倹約したのではなく、当局から捜査依頼のあった日からきょう貴隊にあうまでの二百日ほどの長期間にわたって、レーダーを一秒間たりとも休めないで捜査をつづけたのですぞ。そのけっか、本艇では高価なるブラウン管を二十何本、いや三十何本かを、とにかくたくさんのブラウン管をだめにしてしまった。この代価もぜひとも払ってもらわねばしょうちできんです」
どこまでいっても、よくばった話ばかりであった。
黒バラの目印《めじるし》
大佐は随員と協議した。
とにかく、きょうはこれで引きあげることにしようではないかと決まった。
そこで帆村から、お土産の贈り物である新雑誌[#「新雑誌」は底本のママ。文脈からは「新聞と雑誌」と思われる。]と果物の
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