ら、エンジンの間にすえつけてある赤外線放射器から、かなり強烈な熱線をだして、スコール艇長の顔へあびせかけているのだった。その熱線のおこぼれが、うしろについているテイイ事務長にあたり、それで事務長は「暑い、暑くてかなわん」とさわいでいるのだ。
しかるにスコール艇長は、平気のへいざでテッド博士の話に注意力のはんぶんをさき、のこりの注意力を機関室の壁や床や天井のほうへそそいでいるのだった。――と、とつぜんみょうなことが起こった。スコール艇長の長い髯《ひげ》がばさりと下に落ちた。つづいて右の頬ひげが脱落した。それから右の口ひげも、顔からはなれて足許《あしもと》に落ちた。
赤外線の熱で、つけひげの糊《のり》がとけはじめたのである。ひげの下から現われた顔は、画にも文章にもかけない醜悪な顔だった。どんな悪魔もこれほどのすごい顔を持っていまい。
「おや、ひげがこんなところに落ちている」
と事務長テイイが、やっと気がついた。そしてぎくりとしてスコール艇長に追いついて、その顔をのぞきこむと、さあたいへん、秘密にしておかねばならないはずの恐ろしい地顔《じがお》がはんぶんほど現われているではないか。
「
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