れなかった。
「うん。これはまさに重大事件だ。わら小屋の一隅《いちぐう》に、マッチの火がうつされて、めらめら燃えあがったようなものだ。見ていてごらん。いまに世界じゅうをあげてさわぎだすようになるだろう」
「いまではもう世界的事件になっているではありませんか。臨時ニュースで放送されるくらいですもの」
「いや、それでもいまは、まだマッチの火がわら束《たば》にうつったくらいだ。やがで世界じゅうの人々が火だるまになってわら小屋からとびだしてくるだろう。――おや、おや、僕はとんでもない予言をしてしまったね。予言することは、このおじさんはほんとは大きらいなんだが……」
そのとおりであった。伯父は、事件の捜査にあたって、いろいろな証言や証拠品がそろって、もうだれにも「かれが犯人だ」といえるようになっても、伯父はけっしてそれを、ひとにいわないのだった。また次の日、犯人がある場所へあらわれることを知っていても、それをけっしていわない人だった。そういうときは、伯父はその日になってその場所へいって待っている。そして犯人がほんとに姿をあらわしたときに、伯父ははじめて「そうだ。そうこなくてはならなかったのだ」
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