いる。二十九名だよ、今空中を漂流しているのは……」
博士は、生涯にはじめて嘘を一つついた。
「二十九名? ほんとうに二十九名が漂流していますか」
「ほんとうだ。いくらかぞえても二十九名いるぜ」
「ははは、ぼくはあわてていたらしい。じゃあこんどはぼくが飛びだす番だ……」
と少佐は壁から空間漂流器をおろして身体にしばりつけようとした。そのとき少佐は、おどろいた顔になって戸口をふりかえった。
「誰だ? まさか……」
もう誰も残っていないはず。が、戸の外からどんどんたたく音がする。人間らしい。そのようなことがあっていいものか。
少佐は漂流器を下において、戸口へとんでいった。そして戸をまえへ開いた。
と、戸といっしょに、ひとりの人間の身体がころがりこんできた。
たしかに人間だった。乗組員だ。しかし誰だわからない。上半身が黒こげだ。顔も両手も黒こげだ。
「誰だ、きみは……」
その黒こげの人物は、火ぶくれになった顔をあげ、ぶるぶるふるえる両手に一つの黒い箱をささえて少佐にさしだした。
「きみはモリだな」
「森です」火傷《やけど》の男は苦しそうにあえいで、
「艇長。これを発火現場で見つけ
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