ました。本艇の出火はこれが原因です」
「これはなにか」
「強酸《きょうさん》と金属とをつかった発火装置です。艇長、本隊を不成功におわらせようという陰謀《いんぼう》があるにちがいありません。他の艇にも、こんなものがはいっているかもしれません。至急、僚艇へ警告してください」
「うん、わかった。すぐ司令艇へ報告する」
 艇長は、痛む胸をおさえて後をふりかえって、テレビ電話のほうを見た。映写幕には、司令艇の隊長テッド博士の顔が大うつしになって、うなずいていた。
『ばんじわかったぞ。はやく退避せよ』と目で知らせているのだ。少佐は安心した。
「報告はすんだ。モリ、さあぼくといっしょにはやく艇から脱出しよう。きみの空間漂流器は……おお、これを着ろ」
 少佐はじぶんの漂流器を森に着せようとした。
「それはいけません。艇長のふかい情《なさけ》に合掌《がっしょう》します。しかしわたしはもうだめです。助かりっこありません。艇長、わたしにかまわず、はやくこの艇をはなれてください」
「そんなことはできない……」
「艦長。はやく艇をはなれてください」
 森は、最後の力をふるって立ちあがった。そして漂流器を少佐にか
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