いるくせに、すうーッと吸いつけるような肌ざわりのものであった。
 扉に鍵をかけて、三根夫は、ほっと息をついた。
「かわいそうに。いつから気がちがったんだろう。これはたいへんなことになった」
 と、帆村は、壁のところへ身を引いて、目を丸くして三根夫をながめた。
「はははは。はははは」
 三根夫は、おかしくてたまらず、大きな声で笑った。帆村には、あの怪物の姿が見えないのだ。だから三根夫のすることが、さっぱりわけがわからず、三根夫は頭が変になったのだと思ったのだ。そのやさきに、三根夫が大きな声をあげたもんだから、いよいよ三根夫は頭が変になったにちがいないと思い、沈痛な面持になり、大きなため息をついた。
 帆村がすべてを知るまでには、それからしばらく時間がかかった。それと、三根夫のくどくどと説明のくりかえしがひつようであった。変調眼鏡を見せられて、帆村はやっとすべてを了解したのであった。それがなければ、帆村はその後もながい間、三根夫のことを変だと思っていたろう。
「やあ、安心したよ。ぼくは、絶壁の上へつきやられたような気がしていたよ。そうか、そうか。これを手に入れたとは、三根クンの一番大きいお
前へ 次へ
全239ページ中163ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング