つぐんだ。そして肩をすぼめてあごひげを小さくふるわせている。老人の顔色は血《ち》の気《け》をうしなっている。
そのまわりにいた老婦人たちも、スミス老人のただならぬようすに気がついた。そしてスミス老人がぶるぶるふるえだしたわけを、それとさっして、これまた顔色が紙のように白くなり、ひざのあたりががくがくとふるえだして、とめようとしても、とまらなかった。花束までが、こまかくふるえていた。
ずいぶん永い時間、みんなは息をとめていたような気がした。しかしじっさいは、たった二分間ほどだった。その間に、れいの緑色のスカーフで顔をつつんだ松葉杖の男は、人ごみの中にかくれてしまった。
「スミスのおじいさん、いまここを通っていったのが、そうなんですかね」
ケート夫人が、さいしょに口をきった。くだもの店をもっているしっかり者と評判の夫人だった。
「しいッ。あまり大きな声をださんで……」
とスミス老人は大きな目をひらいて言った。
「……わしの言ったことはうそじゃなかろうがな。だれでもひと目見りゃわかる。あのとおりあやしい男じゃ」
「やっぱり、そうなの? あのスカーフの下にどんなこわい顔がかくれているん
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