ちのとなりの空席へうつそうとした。すると、とつぜんその空席の椅子がひとりでぎしぎしと鳴り、そして空席のところから若い女の声がとびだした。
「あッ、この席にはあたくしがおりますのよ」これには面くらって、うしろへさがった。
「ええッ、なんとおっしゃる」目をさけるほど見はったが、となりの席はやっぱり空席だった。
「そんなにこわい顔をなすっちゃいやですわ。どうぞあなたの席におつきくださいませ」
「はい。しょうちしました。しかしあなたの声はすれどもお姿はさっぱり見えないのですがね」
「そうでございますか。ご不便ですわね。ほほほほ」
「いや、笑いごとではありませんよ」そのときガンマ和尚の声がひびいた。
「みなさんに申しあげます。みなさんをお招きしたわたしどもの姿が見えませんために、いろいろとおさわがせさせてすみませんでした。それでただいまよりわたしどものつけております衣裳だけを、見えるようにいたしますから、それによってわたしども主人側の市民たちが、どのようにたくさん、そしてどのように熱心にみなさんを歓迎しているか、お察しください」
 といったかと思うと、ああらふしぎ、この大食堂の中は一時に百花が咲
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