だ、かるはずみしてはいけない。動いてはならない」
 サミユル先生が、ふたりをとめた。
「ですが、先生。奥のほうに何か騒動が起こっているに、ちがいありませんもの」
「いいや、ほっておきなさい。よけいなおせっかいをすると、ガン人はよろこばないのだ。われわれは捕虜《ほりょ》なんだから、ひかえていなくてはならない」
「しかし、先生。あのとおり死にそうな声をだしている。それに三根夫君もとびこんでしまった。少年を見殺しにできません。助けてやりたい」
 テッド隊長は、居ても立ってもいられない思いに見えた。
「隊長。わたしがかわりにいってきますから、おまかせください」
「ああ、帆村君、きみがいくって……」
「たいしたことじゃないと思います。この一件でしょう」帆村は、卓上を指した。それは三根夫の席があるところの卓上だ。そこに小さい虫かごのようなものが一つおいてあった。
「なんだい、これは……」
「この籠の中にいたものが、騒動をひきおこしたんでしょう。サミユル先生。この国には人間以外の動物は、たくさんいますか」
「あまりいないねえ」
「ねずみなんか、どうですか」
「ねずみ。ああ、ねずみか。ねずみは見かけな
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