そうかといって、あまりスピードをあげる割合いを――このことを『加速度のあげ方』ともいう――その割合いをきゅうにすると、搭乗員の内臓によくないことが起こる。ことに脳がおしつけられてしまって、気が遠くなったり、仮死《かし》の状態となり、はげしいときにはそのままほんとうに死んでしまう。そういうことがあるから、あまり加速度をきゅうにあげることもできないのであった。
 つまり、その中間の、ほどよい、そして能率のよいスピードのあげ方というものがある。それをまちがいなく正しく調整していくことが操縦員にとってまず第一番のたいせつな仕事であった。
「ああ、なんという壮烈なことだ。どうかこの十台の救援艇が、無事にもどってきてくれますように」
 そういって、ひそかに神に祈りをあげる老紳士もいた。
「うまくいくだろうか。三十名十台だから、総員三百名だ。このうち何人が生きて帰ってくるだろうか」
 心配する飛行家もいた。
「ああ、勇《いさ》ましい。あたしはなぜいっしょにゆけなかったんでしょう。エイリーンさん、アネットさん、ペテーさんはいってしまった。あたし、うらやましい」
 ハンカチーフをふりながら、残念がるお嬢
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