三根夫は、あわててそういった。
「はい、かしこまりました」その声につづいて、きみょうな現象がはじまった。紙の袋が一つ、ものかげからとびだしてきて、りんごの並んでいるところから五十センチほど上の空間に、ぴったり停止した。と、ばりばり音がして、紙袋は口を開いた。
「あッ」三根夫は、目を見はった。すると、下に並んでいた紅いりんごが一つ、すうっと宙に浮きあがった。と思うと、がさがさと音をたてて、紙袋の開いた口の中へとびこんだ。りんごにたましいがあって、いきなり身をおこして紙袋の中へとびこんだようだ。まもなく、もう一つのりんごが、仲間からはなれて、またもや紙袋の口へとびこんだ。こうしたことが、三根夫のあっけにとられているまにくりかえされ、紙袋は十個のりんごで大きくふくらんだ。
「さあ、どうぞ」れいの女の声とともに、りんごのはいった紙袋は三根夫の胸のまえへきて、ぴったりとまった。三根夫はびっくりして、思わずひと足うしろへ後退した。
「ほほほ。どうなすったんですか。さあどうぞりんごをおとりください」
「はいはい」三根夫は、りんごのはいった紙袋を両手でつかんだ。とたんにずっしりと十個のりんごの重さがか
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