うか。帆村のおじさん。お客さんがひとりもいません。へんですね」
「客の姿が見あたらない。よろしい。それから……」
「それからですって。まだへんなことがあるんですか」
 三根夫は立ちどまって、店をまじまじとながめる。
「あ、これかな。帆村のおじさん。店の出入り口の戸が、ばたんばたんと、開いたり閉まったりしますね。まるで風に吹かれているようだけれど、そんな強い風が吹いているわけでもないのにへんだなあ。おじさん、これでしょう」
「なるほど。それから……」
「えッ、えッえッ。まだ、それからですって」
 三根夫はあきれてしまった。へんなことが、そんなにたくさんあるのだろうか。帆村荘六がからかっているのかしらと、三根夫は帆村の顔をちらりと見た。
 帆村は、そのとき小さい手帖に、いそいでなにごとかを書きこんでいた。


   りんごの買物


「どうだい。わかったかい」
「いや、わからないです」
「三根クン。きみはあの店にならんでいるりんごがたべたくないかい」
「あれですか。りんごはめずらしいですね。それにたいへんおいしそうだ。あれを買えないでしょうかね」
「さあ、どうかな。三根クン。きみはあの店へ
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