えないことであって、それにおびえてだれも返事をする者がない。
姿なき声は、べつにきげんをそこねたようすもなく、ひきつづいて、こっちへことばをかける。
「どうか、みなさんは、この橋を利用してください。ごらんのとおり、この橋はまっすぐに伸び、やがてはしに達します。そこにはエレベーターがあって、上り下りしています。それに乗って、下までおりてごらんになるよう、おすすめします。みなさんはそこで、なつかしい市街《しがい》をごらんになることでしょう。いろいろな飲食店もあり、生活に必要な品物をも売っている店もございます。どうぞごえんりょなく、ご利用ください」なんということだ。まるで大きな百貨店の玄関で案内嬢から店内の案内を聞くような気がする。
だが、姿なき声がのべたてる案内は、とても信じられなかった。こんなへんぴな天空《てんくう》に市街などがあって、たまるものか。飲食店や売店があるといってもだれが信じるだろうか。いや、それどころかエレベーターのついている塔が、下から上へ伸びあがってきたことさえ、たしかに目で見たにちがいないのに、信じられないのだ。夢を見ているとしか考えられない。
こういう感じは、
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