った。また愛曲集と画集を買った。それから工学講義録二十四冊ぞろいも買った。これらは艇内にとじこめられて、たいくつな永い旅行をつづけるあいだに、たのしんだり、勉強をするためだった。
受信機や万年筆や手帳やトランプやピンポン用具などは、買いかけたが、やめにした。こんなものは艇内にそなえつけてあるだろう。
薬品を買うひつようはないであろう。
服装に関するものもないだろう。靴なんかのはきものもいらないであろう。艇内には、そういうものを作ってくれる裁縫師《さいほうし》や靴屋さんがいるであろうから。
だんだん考えていくと、ぜひ買っていかねばならぬ品物があまりないことに気がついた。
もう家へかえろうかなと思った三根夫は、最後に、とうぶん銀座街ともお別れだと思い、そこを歩いた。
昔ながらの露店《ろてん》が、いろいろなこまかいものをならべて、にぎやかに店をひらいていた。それをいちいちのぞきこんでゆくうちに、三根夫は、ある店に、小さな娘の人形が、オルゴールのはいった小箱のうえで、オルゴールの奏楽《そうがく》とともにおもしろくおどる玩具《おもちゃ》を、一つ買った。かれはオルゴール音楽がたいへん好
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