っちであります」
 と、ロバート大佐が怪人ガスコにたいし、わざとていねいにいって腕をのばした。
「ふん。わしは礼をいう。いずれ後から、たんまりお礼をするよ。おい、事務長。みっともないじゃないか。さあ、早くこい。引きあげだ」
 怪人ガスコは、げらげら笑いの事務長を横にして抱えると機関室をでてどんどん走りだした。そのあとから三人の空気服を着た部下が、おくれまいと追いかける。
 帆村とポオ助教授も、それにつづいて走っていく。
 あとにはテッド博士とロバート大佐とが残っていて、顔を見合わせた。
「ロバート君。よくまあだんどりよく、あいつの仮面をはぎ、そしてあいつの害心を叩きつぶしてくれたね。お礼をいう」
「幸運でした、隊長。帆村君とポオ君とそれから三根夫少年が、すぐれたチームワークを見せてくれたのですよ。しかし、あれはやっぱりガスコ氏ですかな」
「それにちがいないと思う。あの緑色のマフラー、あの口のきき方、顔を見せないで、変装してきたことなど、ガスコ氏にちがいない。しかしふにおちないのは、飛行場に残ったはずのガスコ氏が、いつの間にギンネコ号にはいりこんだのか、それがわからない。
「怪しい人物ですね。あれはいったいどういう素性《すじよう》の人ですか」
「それは帆村君にも調べさせたんだがはっきりとはわからない。わかっていることは――」
 といいかけたとき、警鈴《けいれい》のひびきとともに壁の一方にとりつけてあったテレビジョンの幕面に本艇をはなれてゆく怪人ガスコの乗ったロケットがうつりだした。
「隊長、ごらんなさい」と、高声器の中から帆村の声が聞こえた。
「スコール艇長は、かれの部下のひとりが、最後に乗りこもうとして片足をかけたときに艇をだしたので、かわいそうに、かれはハッチから外へほうりだされて、あれあれ、あのとおり宙に浮いて流れています」
「おお、かわいそうに。非常警報をだして僚艇から救助ボートをだしてやれ」
 テッド隊長はむずかしいとは思ったが、いやなギンネコ号の乗組員ながら、ひとりの人命を救うために、重大命令を発した。
 怪人ガスコは、ぷんぷん怒って、ギンネコ号にもどってきた。出迎えた艇員の誰もが怪人ガスコのスコール艇長のそばに寄りつけない。
 ガスコは、艇長室へはいった。
 それからかれの部屋から、ベルがたびたび鳴った。入れかわりたちかわり、いろいろな人が呼ばれたが、いずれも頭や顔に大きなこぶをこしらえて、ほうほうのていで艇長室から逃げだしてきた。
「ちょッ。やくに立つやつはひとりもない。これっきりで、わしがぐずぐずしていた日には、女王《クィーン》から、どんなお叱りをうけるか、たいへんなことになる。こいつはなんでも早いところ、すぐさま宇宙線レンズで、テッド隊のロケット九台を焼き捨ててしまうにかぎる。そうだ。それしか手がない」
 怪人ガスコは、卓上のマイクを艇内全室へつなぐと、それに向かって命令のことばをどなった。
「砲員の全部は、宇宙線レンズのあるところへ集まれ。宇宙線レンズ係りは、すぐ使えるようにいそいでレンズを艇の外へ突きだせ。わかっているだろうが、これからテッド隊のロケットをぜんぶ焼きはらうんだ。わしはすぐ、そこへいく。それまでに用意をしておけ」
 マイクのスイッチを切ると、怪人ガスコは両の拳《こぶし》でじぶんの胸をたたきわらんばかりに打った。そしておそろしい声でうなった。それはどうしても野獣の叫び声としか思われなかった。


   大異変《だいいへん》


 ギンネコ号では怪人ガスコの命令により、宇宙線レンズ砲が、むくむくと動きだし、艇外へぬっと砲門をつきだした。
 あとは、ガスコの「焼け」という号令一つで、このレンズ砲が偉力《いりょく》を発し、たちどころに救援隊ロケット九台を火のかたまりとしてしまうことができるのだ。
 それぞれの宇宙線レンズ砲についている砲員たちは、ガスコの号令をいまやおそしと待ちうけた。
 ガスコは、レンズ砲の用意のできたという報告を受取った。よろしい、いまやテッド博士以下を赤い火焔《かえん》と化《か》せしめ、『宇宙の女王《クィーン》』号の救援隊をここに全滅せしめてやろうと、かれは覆面の間から、ぎょろつく目玉をむきだし、相手をにらんで「焼け」という号令をマイクにふきこむために、その方へ口を寄せた。
 ああ、テッド博士以下の救援隊員の生命は風前の灯である。全滅まえのたった一秒まえである。ガスコが、のどから声をだせば、すなわちテッド博士以下の生命はおわるのだ。
「ややッ!」
 おどろきの叫び声! 叫んだのは、余人でない、怪人ガスコだった。
 かれは両手でじぶんの大きな頭をおさえ、はあはあと、あらい呼吸《いき》をはずませた。
「ちぇッ、おそかったか……」
 と、ガスコが二度目のおどろきを発したそのときには、
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