ギンネコ号の全体はうす桃色の光りで包まれていた。
そればかりか、艇の外へつきだしたばかりの宇宙線レンズが、まるで飴《あめ》のように、だらんと頭をさげて曲がり、それからそれは蝋《ろう》がとけるようにどろどろととけて、なくなってしまった。なんというふしぎであろう。
これでは、怪人ガスコがものすごい声をだしてざんねんがるのも、むりはない。いったいだれが宇宙線レンズをこんなにとかしてしまったのであろうか。いや、そればかりでない。ギンネコ号をうす桃色の光りが包んだときから、ギンネコ号は航行の自由を失ってしまったのだ。つまりいくら舵《かじ》をひねっても操縦はきかなくなり、いくらガス噴射を高めてみても前進しなくなったのだ。
怪人ガスコは、頭をおさえたまま、どうと艇長室の床にたおれた。
このギンネコ号の異変は、救援隊ロケットがやったことであろうか。
いや、そうではないようだ。というわけは、テッド博士のひきいる救援隊ロケットにおいてもギンネコ号の場合にゆずらない異変がおこっている!
九台のロケットは、やはり艇全体がうす桃色の光りでつつまれていた。
操縦がさっぱりきかなくなり、前進もできなくて、まるで宇宙の暗礁《あんしょう》へのりあげてしまったようなことになった。
「故障! 原因不明!」
「航行不能におちいった。原因不明」
そういう報告が、僚艇から司令艇のテッド博士のところへ集まった。
ところがその司令艇も、ふしぎな故障で、航行不能におちいっているのであった。しきりに尾部《びぶ》からガス噴射をしているんだが、速度《スピード》計の針はじっと一所に固定してしまって、一目盛も前進しない。
「これはきみょうだ。こんなに猛烈にロケット・ガスを噴射しているのに、すこしも前進しないとはおかしい」
「外力がこのロケットにくわわっているわけでもないのに、完全に動かなくなるとはおかしい」
「しかしそれでは自然科学の法則にはんする。やっぱり外力が本艇にくわわっているのではないか」
「だってきみ、そんな外力を考えることができるかね。本艇のロケット推進力を押しかえしてゼロにするという外力が、どうしてあるだろうか。外を見たまえ。本艇の正面も尾部も異常なしだ。他のロケットで、本艇を押しもどしているようすなんかないものかね」
「ふしぎだ。わけがわからない。いったいどうしたんだろう」
司令艇の機関部員たちは、あらゆる場合を考えて、この謎を解こうとしたが、謎はさっぱり解けない。
テッド博士も、さすがにこれにはこまって、腕をこまぬいてうなるばかりだった。
(この異常現象はどういうわけで起こったか。それがわからないうちは処置なしだ)
博士は、その異常現象が、九台の救援ロケットの破壊をすくったことさえ知らなかった。
「あッ、ふしぎだ。空から星が消えていく。隊長、あれをごらんなさい」
叫んだのは帆村荘六だった。
操縦席のまえの硝子《ガラス》窓をとおして、無数の星がきらきら輝いているひろい大宇宙が見えていたが、その星が、左のほうからだんだん消えていくのであった。まるで大きなひさしが天空を横にうごき、星の光りをかくしていくようであった。
すわ、大異変!
暗黒化
「おお、なるほど。星の光りがだんだん消えていく」
テッド博士もおどろいた。いったい星の光りをさえぎっているものはなにか。
「なにかしらんが、大きなひろいものが星と本艇の間にあって、星の光りをさえぎっていくのですね」
帆村の声が、いつになくうわずっている。かれはなかなかおどろかない男だが、きょうばかりは大おどろきの中にほうりこまれているらしい。
「そうだ。通信当直。レーダーで調べてみるんだ。あのおそろしいじゃまものはいったい何だかわかるかね。あれは本艇から、どのくらいの距離にあるのか、すぐ調べてくれ」
テッド博士は叫んだ。
「だめなんです、隊長」
「だめとは何が?」
「今、ご報告しようと思っていたところですが、いますこしまえから、とつぜん僚艇との連絡通信が不可能になりました」
「やッ」
「こっちからいくら電波をだしても、僚艇から応答なしです。じつはレーダーもはたらかしてみました。ところが、これもだめなんです。つまり本艇の電波通信はさっぱり用をしなくなりました」
「レーダーも応答なしか」
「はい。困りました」
「困ったね。そしてわけがわからん。おお、ポオ助教授。きみにわかるかね、本艇の電波通信が用をしなくなった理由が……」
テッド博士は、そばにポオ助教授が立っているのに気がついて、そういってきいた。
「ちょうど、非常にひどい磁気嵐《じきあらし》にでもあたったようですね。しかしいまのところぼくにも本当のことはわかりません」
助教授も、さじをなげた。
その間にも、帆村は、星の光りが消えてい
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