、どうなるかをひそかに診察しているわけだった。
(ふむ。だいたいわかったぞ。あとは、一番艇内でたいせつな機関室の金属の壁のぐあいを調べることができれば、それで下調べはすむ)
 怪人ガスコは、ほくそ笑んで、足をいよいよ機関室にうつした。
(よし。この部屋がすんだら、あとはすきを見て、まえにゆくこのテッド博士の脳を電波でかきみだしてやろう。ふふふ、もうしばらくだて……)
 一同の一番最後から、帆村が機関室にはいった。テッド博士は、そこにならんでいるたくさんの器械器具について非常にくわしく説明をはじめた。
「ああ、どうも暑い。この部屋は暑いですなあ」
 そういったのは、テイイ事務長で、ハンカチをだして、額に玉のようにうかびでた汗をぬぐうにいそがしい。
 事務長の外のお客さんは、そんなに暑がっていない。スコール艇長も、平気である。
 このとき三根夫少年は、たいへんいそがしかった。かれは作業服を着て、一段高い配電盤のまえに立って、一同のほうに背中を見せ、しきりに計器を見ながらハンドル型の調整器をまわしているのだった。誰が見てもそうとしか見えないが、じつは三根夫は反射鏡でお客さんたちのほうを見ながら、エンジンの間にすえつけてある赤外線放射器から、かなり強烈な熱線をだして、スコール艇長の顔へあびせかけているのだった。その熱線のおこぼれが、うしろについているテイイ事務長にあたり、それで事務長は「暑い、暑くてかなわん」とさわいでいるのだ。
 しかるにスコール艇長は、平気のへいざでテッド博士の話に注意力のはんぶんをさき、のこりの注意力を機関室の壁や床や天井のほうへそそいでいるのだった。――と、とつぜんみょうなことが起こった。スコール艇長の長い髯《ひげ》がばさりと下に落ちた。つづいて右の頬ひげが脱落した。それから右の口ひげも、顔からはなれて足許《あしもと》に落ちた。
 赤外線の熱で、つけひげの糊《のり》がとけはじめたのである。ひげの下から現われた顔は、画にも文章にもかけない醜悪な顔だった。どんな悪魔もこれほどのすごい顔を持っていまい。
「おや、ひげがこんなところに落ちている」
 と事務長テイイが、やっと気がついた。そしてぎくりとしてスコール艇長に追いついて、その顔をのぞきこむと、さあたいへん、秘密にしておかねばならないはずの恐ろしい地顔《じがお》がはんぶんほど現われているではないか。
「艇長。あなたの顔が――」
 と、テイイの叫ぶ声に、はっとしてスコール艇長は気がついた。かれは「しまった」とうなると、手をポケットに突込み、それから緑色のマフラーをつかみだし、くるくるッと自分の顔にまきつけた。
 まえばかり向いて説明をつづけていたテッド博士が、このとき気がついて、うしろにふりむいた。
「どうかされましたか。おや、あなたはガスコ氏!」
 博士は、ガスコ氏をいいあてた。が、博士の声は、あんがいあわてていなかった。あわてているのは、当の怪人ガスコだった。
「なにをいう。わしはガスコなんて者ではない」
 緑色のマフラーのなかで怪人の口が大きく動いた。と、とつぜんかれは、服の下から、針金を輪にしたようなものをとりだし、頭上高くあげた。そしてそれを高く持ったかれの右手はねらいをつけるためか前後へゆれた。その輪こそ、かれがテッド博士の顔めがけて発狂電波を投げかけようとするおそろしい発射器であった。と、かれの左手が服の下へはいった。そこには電波をだすためのスイッチがあった。
 かれはそのスイッチをおした。ああ、博士があぶない。


   ほえる怪人


 とつぜん、この機関室が鳴動した。
 電灯がすぅーと暗くなったかと思うと、天井につるしてあった二つの大きな金属球の間に、すごい音を発して、ぴかぴかッと電光がとんだ。
 その電光の一部は、ガスコ氏が高くさしあげた輪の上にもとんだ。
「あッ」
 と叫んで、ぱったりたおれた者がある。電光のとびつく輪を持って立っている怪人ガスコのうしろにいた事務長テイイが、悲鳴とともにたおれたのだ。
 たおれたと思ったテイイは、すぐはね起きた。そしてげらげらと、とめどもなく笑いだした。
「ちょッ、二度目の失敗だ」
 いまいましそうに怪人ガスコは舌打ちして、電波をだす輪を足許へなげすてた。
 すると、いままで部屋じゅうを荒れくるっていた電光がぱったりと停り、電灯がもとのように明かるくなった。
「わははは。これはいいおもてなしを受けたもんだ。稲妻《いなずま》のごちそうとは、親善の客にたいして無礼きわまる」
 電波が発射されるまえに、三根夫が大放電のスイッチを入れ電光をとばしたので、さしもの電波もテッド博士のほうへは向かわず、かえってあべこべに後へ吹きつけられ、テイイ事務長の頭をおかして、かれの頭を変にさせたのであった。
「おかえりになる道は、こ
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