くまわって、こっちへ近づきます」監視員が、艇内へ放送した。
 なるほどテレビジョンの幕面《まくめん》に、それがうつっている。石油やガソリンを積む貨車に似たロケットだった。背中に、こぶのようなものがとびだしているのが、かわっていた。あっというまに三度ばかり司令艇のまわりをまわったが、あとになるほどスピードをおとして、四回目には母艇《ぼてい》ギンネコ号の探照灯をうけて胴中《どうなか》をきらきら輝かしながら、司令艇の出入り口のうえに、こぶのようなものがすいついていた。あざやかな投錨《とうびょう》ぶりだ。
 それから五分すると、そうほうの打ち合わせがうまくいって通路が開かれ、ギンネコ号の乗組員が五名、どかどかと司令艇のなかへはいってきた。
 先発は、ひげの老艇長スコール。そのあとに長身でやせぎすの事務長テイイがらくだ[#「らくだ」に傍点]のような顔をこうふんにふりたててしたがった。そのあとに空気服とかぶとをつけた武装いかめしい三人の部下がついていた。三人とも目ばかりぎょろつかせ、みょうな形の機銃らしいものをかまえている。
 テッド隊長は、副隊長のロバート大佐をしたがえて出迎えた。そのうしろにポオ助教授の神経質な顔と帆村荘六の面白い顔とがのぞいていた。
「わしがギンネコ号の艇長だ、テッド博士はあなたかね」
 スコール艇長は、ぶっきら棒にものをいう。
「わたしがテッド隊長です。よくおいでくださいました。部下の一部を紹介します」
 と、テッド博士は礼儀ただしく副隊長以下の接伴員《せっぱんいん》たちを紹介した。そして、こちらへと客間にみちびいた。
 帆村はスコール艇長を迎えたときに、大きいおどろきにぶつかった。ギンネコ号の艇長といえば、かれがなじみの鴨《かも》艇長だとばかり思っていたのに、それが意外にも、別人の髭《ひげ》もじゃの老人だったので、もうすこしで「あッ」と叫ぶところだった。
 その帆村は、一番おくれて客間にはいった。そのまえにかれは、いつも影のようにかれについている三根夫少年の手をにぎり、指先を使ってなにごとかを三根夫に伝えたのであった。
 三根夫は、帆村からの信号をりょうかいすると、さっと青くなり、それからこんどはぎゃくに赤くなった。そして目立たないように帆村のそばをはなれて、どこかへいってしまったのである。
 客間では、テッド博士が、スコール艇長にむかい、きのう部下たちが訪問して親切にあつかわれたことについて礼をのべ、また目下の運命の知れない『宇宙の女王《クィーン》』号について情報をもたらしたことを感謝した。
「なあに、助けあうのはあたりまえのことだ。ましてや外に生物もいないこの宇宙のはてにおいて、人間同志はしたしくするほかない。仲よくしましょう」
 スコール艇長のことばはよかった。しかしかれの本心からでているかどうか、うたがわしい。
 これにたいしてテッド隊長は、どこまでもまじめに相手に礼をいった。そしてこっちもギンネコ号のためにできるだけのべんぎをはかりたいが、もし水や食糧品でもたりなければ、もっとおゆずりしてもいいといった。
「そんなものは、じゅうぶん持っている。おお、そうだ。協力で思い出したが、わしはこのロケットのなかを見たことがない。いいきかいだ。これから案内して、見せてもらいましょう」
 ロバート大佐が、スコール艇長の申し出にあるふあんをおぼえ、テッド隊長に注意をしたとき隊長はにっこり笑って、むぞうさにスコール艇長に答えた。
「ええ、それはおやすいご用です。さあわたしがご案内します」
 といって立ちあがった。
 これはたいへんと、ロバート大佐が隊長に耳うちしようとするのを、しっかり抱きとめた者があった。ふりかえると、それは帆村だった。
「いいのです。そのままにしてお置きなさい」
 と、帆村は目で大佐に知らせた。
 そこでギンネコ号の五名のお客さんを案内して、テッド博士をはじめ、ロバート大佐、ポオ助教授、帆村の四名が、その部屋をでた。まず操縦室から案内することになった。
 スコール艇長は、ひげだらけの顔を上きげんにゆすぶりながら、上下左右へしきりに目をくばり、このロケットの構築《こうちく》ぶりをほめるのであった。それは、かりそめにも害心《がいしん》のある人物に見えなかった。
 しかし帆村はもちろん、ロバート大佐もポオ助教授も、ゆだんはしていなかった。だがこの三人がスコール艇長、じつは怪人ガスコ氏の兇暴《きょうぼう》なる陰謀を知りつくしているわけではないから、危険は刻一刻とせまってくる。


   三根夫の活躍


 艇内を案内されてスコール艇長のガスコ氏が、とくに目を向けていたのは、このロケットの壁の厚さと材料と、その構造についてであった。宇宙レンズで、強力なる宇宙線の奔流《ほんりゅう》をこのロケットにあびせかけたとき
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