ず身ぶるいがでた。たがいに助けあう友だちの艇と思ったギンネコ号が、意外にもゆだんのならないゴロツキ艇であるらしく、それが身ぢかにいる間は、いつこっちに害をくわえるかもしれず、ほかに警察力もないこの宇宙の一角において、生き残りの九台の救援艇隊にふりかかる運命は、どんなにきびしいものであろうかと心配されるのだった。
ギンネコ号|離脱《りだつ》
その夜、帆村と上下のベッドにはいった三根夫は、上のほうから下へ声をかけた。
「ねえ、帆村のおじさん。ギンネコ号はゆだんのならないゴロツキ艇だってね」
「まあ、そうとしか思えないね」
帆村の返事は、ぶっきら棒だ。なにか帆村は考えごとをしていたにちがいない。そこへ三根夫が声をかけて、じゃまをしたから、帆村はぶっきら棒の返事をしたのであろう。
「でも、まえにおじさんは、あの船には鴨《かも》艇長がのっている。鴨艇長はいい人だから、あの宇宙艇はいい人ばかり乗っているんだろうといったでしょう。おぼえているでしょう。その話とゴロツキ艇の話とは正反対ですね」
「そのことだ」と帆村は低くうなるようにいった。
「とにかく鴨艇長が乗っているかぎり、正義と親切の艇であるはずだ。だからおかしい。艇長は病気をしているとテイイ事務長の話だったが、病気をしているくらいで、乗組員があんなゴロツキみたいに悪くなるはずはないんだがなあ」
「ギンネコ号は、『宇宙の女王《クィーン》』号の遺留品をしこたまひろって、知らん顔をしているんじゃないですか。そういうことをするのを、『猫ばばをきめる』というでしょう。なまえがギンネコだから、きっとネコばばをするのはじょうずなんだろう」
「ははは。ギンネコだからネコばばはじょうずか。これは三根夫クン[#「三根夫クン」は底本のママ。文脈上からは「ミネ君」(前出)もしくは「三根クン」(後出)が妥当と思われる。]、考えたね。ははは」
笑わないことひさしい帆村がかるく笑ったので、三根夫もうれしかった。
「とにかくもうすこしギンネコ号のようすを見たうえで、『宇宙の女王』号とどんな関係にあるかをつきとめるしかない。そうだ、もう一度テッド博士にご注意をお願いしてこよう」
そこで帆村は、またベッドから起きあがると、服を着かえて、隊長のところへでかけた。
さてその夜のことであるが、救援艇隊はひそかにギンネコ号の行動を監視していた。
監視といってもテレビジョンでのぞいているのを主とし、そのほかに、ほんのわずかだけ弱いレーダー電波をギンネコ号にむけて、その位置を注意していた。レーダー電波を、あまり強くかけると相手が気をわるくする。ことにギンネコ号をおこらせ、現場から遠くへ離脱《りだつ》するこうじつを相手にあたえてはこっちの大損であるから、電波でギンネコ号をさぐることはなるべく目だたないようにしていた。
夜にはいって一時間ほどすると、(時計の針のうえだけでの夜だ、その時間には当直のほかはみんな睡《ねむ》ることにしていた)当直の監視員がさわぎだした。
「たいへんです。ギンネコ号がわれらの艇団からはなれてゆきます」
まずはじめに、テレビジョンでそれを見つけた。すぐさまレーダーでも探知してみると、なるほどギンネコ号は、さっきまでこっちの九艇の中心あたりにいたのに、いまはどんどん前進してそこからはなれていく。
「うむ。たしかにギンネコ号は動きだした。国際救難法により二十四時間は救援隊から離脱できないことになっているのに、ギンネコ号は、法規をやぶるつもりか」
このことは、すぐさま幹部にまで報告された。隊長テッド博士をはじめ、みんな起きてきた。そして協議がはじまった。
「法規にはんするから、ギンネコ号に反省をもとめようか」
「まあ、もうすこしようすを見てからにしたほうがいい」
隊長は、そういって、ふんがいする部下たちをおさえた。
ところがギンネコ号は、だんだんに速度をはやめて、はなれてゆく。刻々おたがいの距離はひらいていった。
時計をじっと見ていた隊長は、三十分して無電でもってギンネコ号に連絡させた。
それにたいしてギンネコ号は、返事をうってこなかった。
それから三十分して、テッド隊長は、いよいよたがいの距離を大きくしたギンネコ号にたいし法規をたてに、警告をこころみた。
ところが、それにたいしてもギンネコ号は返事をしてこなかった。そしてますます速度をまして、こっちの救援隊の位置からはなれていった。
救援隊員のなかには、ひどくおこりだして隊長はすぐ全艇に命令をだし、最高速度でギンネコ号のあとを追わせるべきだと論じた。最高速度で追いかけるなら、追いつける自信がじゅうぶんにあった。
だが隊長は、それを命令しなかった。
ギンネコ号が、こっちへ返事の無電をうってきたのは、五回目の警告のあとだっ
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