しむべきギンネコ号の行動。
 ギンネコ号と怪星ガンとは、なにか関係があるのであろうか。


   残念がる助教授


 ポオ助教授は、司令艇へ帰ってきても、こうふんをつづけていた。
 帆村荘六は、助教授をなだめるのに一生けんめいだった。三根夫少年は、三人の使者がかえったと知って帆村のところへとんできたが、その場のようすに、三根夫自身も息のつまるような緊張をおぼえたことであった。この息づまるような空気は、救援隊長テッド博士をまん中にした幹部会議の席にまでもちこまれた。
 三人の使者のなかで、一番上席のロバート大佐が、ギンネコ号に使いにいったけっかわかったことについて、一通りの説明をし、そのあとでポオ助教授の肩へ手をおいて、
「……そこでポオ助教授から、見おぼえのある『宇宙の女王《クィーン》』号の空間|浮標《ブイ》がギンネコ号の隅にあったことについて、くわしく話をしてもらおう。ポオ君、おちついて話したまえ」
 と、助教授に発言をうながした。
 待っていましたとばかり、助教授の長身が席からぬっくと立ちあがった。
「あれは、わたしが試験して『宇宙の女王』号へ届けた空間浮標にちがいないのです。形も見おぼえがあり、塗りの色もそうでしたし、さらにまちがいないことは黒バラの目印がついている。黒バラは、『宇宙の女王』号のマークなんですからねえ」
 助教授はそういって、卓子《テーブル》のうえを、とんと一つたたいた。ならんでいる人たちの中には、大きくうなずく者もあった。隊長テッド博士は上半身をまえへのりだした。
「そういうたしかな証拠があるかぎりは………」
 とポオ助教授はいよいよこうふんの色をしめし、
「ギンネコ号はうそ[#「うそ」に傍点]をついていると断定しないわけにはいかない。ギンネコ号は、現場へかけつけたが『宇宙の女王』号を一度も見なかったといっている。うそです、それは。……ギンネコ号はたしかにわが『宇宙の女王』号に出会っている。あるいはその漂流物かもしれないが、それを手に入れている。しかし相手はそれを白状しないのです。まったく、許しておけないゴロツキどもです」
 幹部たちには、助教授のことばの中にある重大性がよくわかった。
「だからです」とこのときポオ助教授はロバート大佐のほうを指し、
「なぜわれわれがギンネコ号のなかにいる間に、あなたはそのてんについて、相手に質問してくださらなかったのか。まったく、大事な機会を逃がしたと思う。あのとき問いただせば、なまず[#「なまず」に傍点]みたいにぬらりくらりしたテイイ事務長といえども、顔色をかえて、泥をはくしかなかったと思う。しかるに大佐は、それをしなかった」
 助教授のとなりにいた帆村が立って、隊長に発言の許可をえたのち、口をひらいた。
「いまポオ助教授が大佐にたいしふまんをのべられましたが、それについて、じつはわたしも責任があります。それはわたしは『空間浮標』のことは、われわれが知らないでギンネコ号を引きあげていったと、相手に思わせる必要があると思ったからであります。もし、それをいいだせばギンネコ号の連中は、ロバート大佐をはじめわたしたち三名を、やすやすと引きあげさせなかったでしょう。わたしはギンネコ号が、秘密をもったいやな宇宙艇であることを、艇内にはいると同時にさとったのです」
 帆村は、横の椅子に腰をおろしたポオ助教授を気の毒そうにながめながら、
「ですから、ポオ助教授が、あの黒バラ印の空間浮標を見つけて、おどろきのあまり声をたてようとされたとき、それをさせてはたいへんと、わたしは失礼をもかえりみず、ポオさんの足を踏み、それをわたしがおわびするさわぎでもって、ポオさんがおどろきの声をあげたのをごまかしてしまったのです。いや、助教授、あのときは失礼いたしました」
 そういって帆村はわびた。
「……それからわたしはいそいでこのことを大佐に知らせ、そしてこの場は、知らんふりをして引きあげるのがいいと思うと申しあげようとしたんですが、さすがに大佐は、さっきからのことも、またわたしの申しあげようとしたこともさとっておられ、余《よ》にまかせておけと合図をされたのです。ですからポオ助教授のふんがいされることはもっともながら、いま申しあげた事情によって、どうかわかっていただきたい」
 と、帆村はあいさつをして、席にもどった。
 助教授は、まだじゅうぶんにのみこめないといった顔だ。
 そのとき隊長テッド博士は、あらたまった口調になって、次のとおりのべた。
「このたびの処置は正しかったと思う。そしてギンネコ号にたいしては、いろいろと対策をかんがえておかなければならない。そして黒バラ印の空間浮標の一件については本国へ向かっての報道を禁止する。事態は重大である」
 この部屋の隅で傍聴をしていた三根夫も、このとき思わ
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