げしい温度変化にたえ、寒さにも暑さにも強い。
ガン人は地球人が呼吸困難を感じはじめるくらいの空気密度の五十分の一の大気中で、平気で生きつづける。そのほか、地球人の目には感じない光りが、ガン人には見えるし、音のこと、電気のこと、磁力のことなどについても、地球人とガン人とでは感じかたがたいへん違っている。
はやくいうと、ガン人にくらべて、地球人はもろい生物だ。そしてまた下級の生物だといわなくてはならない。このガン星において、テッド隊長やサミユル博士以下の地球人が、ガン人のために圧《お》されて、手も足もでないのはいまのべたことにもとづいているのだ。「人間は万物《ばんぶつ》の霊長《れいちょう》である」といばっていた人間も、ここではあわれな二流三流の生物でしかない。
三根夫の帰着《きちゃく》
三根夫が無事にもどってきた。艇内に大きな喜びの声がどっとあがる。
帆村荘六がとびだしてきて、三根夫少年の肩を抱きすくめた。
「よく帰ってきてくれた。みんな、どんなに心配していたことか。どこにもけがはなかったかい」
「けがはしなかったですよ。でも、もうおしまいだなと、あきらめたことがあった」
「そうだろう。そして隊長から命ぜられた仕事は、どうした」帆村は、その仕事が三根夫にとってはあまり重すぎるものだったから、たぶんうまくいかなかったのであろうと思っていた。
「できるだけ、やってきたつもりです。ほら、ここにある」
と、三根夫は撮影録音機のはいっている四角い箱を帆村に手渡した。
「ほう。それはすごいや。で、天蓋《てんがい》まであがってみたのかい」
「ハイロ君が生命がけで、そこへ案内してくれました」
「そうか、ハイロがね。かれは途中でミネ君を密告しやしないかと、それを心配していた」
「そんなことはありません。ハイロ君はできるだけのべんぎをはかってくれました。しかしかれは焦熱地獄《しょうねつじこく》のような配置へいってしまったんです」
「そうかね。……や、隊長がこられた。ミネ君。テッド隊長が迎えにきてくだすった」
そのとおりであった。長身の博士が大股で三根夫のほうへ歩いてきて、大きな手で握手をした。
「おめでとう。たいへんご苦労だった。われわれは、三根夫君のお仲間なんだということに大なるほこりを感ずる」テッド隊長は、いくども手を握ってふった。
「隊長。天蓋も写真にうつしてきました。そばへいってみると、大したものですよ。丈夫で、弾力《だんりょく》があって、厚いんです。あれにむかっていっても、小さな蠅《はえ》が蜘蛛《くも》の巣《す》にひっかかるようなものです」
「そうでもあろう。だが、われわれは、何としても小さな蠅の力で、その丈夫で弾力のある蜘蛛の巣をつき破る方法を考えださなくちゃならんのだ」
そのとき三根夫は、ふと気がついて、
「隊長やみなさんは、このガン星に、いま非常事態が発生していることを知っているのですか」
と隊長にたずねた。
「ああ、知っているとも。だから、いっそうきみの安否《あんぴ》を心配していたんだ。この星が、いまアドロ彗星に追いかけられているというのだろう」
「そうです。どうしてそれがわかりました」
「さっきから、とつぜん本艇の無電通信機が働きだして非常事態放送の電波を捕えたんだ。ふしぎなことだ。われわれが怪星ガンの捕虜になった頃から、無電機は、さっぱり働かなくなっていたんだがね」
「ふしぎですね」
「いろいろふしぎなことがある。いままでは通信がいっさいできなかった僚艇とも電波で通信ができるようになった。そればかりではない。『宇宙の女王《クィーン》』号の通信室とも通話ができるようになった」
「どうしたわけでしょうね」
「わけなんか、さっぱりわからん。とにかくわれわれは、この事態を利用しなくてはならない。きみが持ってかえってくれた資料によって、われわれはなんとしても脱出の方法を考えださなくてはならないのだ。諸君。すぐ仕事をはじめよう。きたまえ」
テッド博士は、首脳部の連中を呼びあつめて司令室へいそいだ。
そこでは、三根夫の撮影してきたトーキー映画の映写ができるように、幕が用意され、発声装置もつながれていた。一同が席につくとまもなく、帆村が反転現像《はんてんげんぞう》したフィルムを持って、この部屋へはいってきた。そのフィルムは、さっそく映写機にかけられた。そして三根夫が苦心して秘密撮影してきた怪星ガンの要所要所が一同のまえにくりひろげられていったのである。
フィルムは、いくどもくりかえし映写された。そして首脳部の人々は、脱出方法について熱心な討論をつづけていった。だがその結論は、思わしくなかった。三根夫が撮影録音してきたフィルムによって、天蓋の堅牢《けんろう》さが、想像していたいじょうにすごいものであることがわか
前へ
次へ
全60ページ中54ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング