かね。あれは強力な信号灯のように見えるが、おまえさんは、あんなものを持って、ここで何をしていたのかね」
「ちがう、ちがう。そんな大それたものではない。それに、あれはおれの持ちものではなくて、ここで拾ったものだ」
 ガスコは、しどろもどろの返答をしながら、目を横に走らせて三根夫をにらみつけた。
 あの三根夫めが、ハイロにちえをつけたなとうらめしくてならないのだ。
「拾ったものだって。よろしい。ガスコ君とやら。それでは、でるところへでてじぶんで説明するがいいだろう。わしは、きみを警備軍へひき渡してやる」
「いや、おれがきさまらを警備軍へひき渡すんだ。きさまたちこそ、こんなとこへあがって、あやしい行動をとっていたことは明白だ」両方が、たがいにいい争っていたとき階段の下のほうにあたって、たくさんの足音が入り乱れて、こっちへ近づくのがわかった。
「きた!」
「きたな。さあ、たいへん」
「ちえッ。しまった。きさまたちがぐずぐずしているから、こんなへまなことになるんだ」
 三根夫とハイロ、それにガスコも、三人が三人とも、顔色をかえた。近づくあの大ぜいの足音は、監視隊附の武装ガン人たちが、あやしい者ありと知って、かけつけてきたのにちがいない。すると、あとは三人とも、この場で逮捕されるばかりだ。三人は、それぞれの思いで、その場に足がすくんでしまった。
 ところが、大ぜいの足音は、階段をのぼってはこず、意外にも階段下をかけぬけて、いってしまった。しかし次の一隊が近づき、この一隊もまたかけぬけていった。そのとき警報が高声器からとびだした。
「第一級の非常事態が起こった。ガン人はただちに非常配置につけ!」
 警報はくりかえし叫ばれた。第一級の非常事態とは何事であろうか。このときガスコが、にやりと気味のわるい笑みをうかべた。


   恐怖《きようふ》の敵


「たいへんだ。これは、たいへんなことになりましたよ、三根夫さん」
 ハイロは顔色をかえて、三根夫にいった。
「どうしたの。第一級の非常事態が起こったというが、それはどんな事態なの」
 三根夫はたずねた。
「第一級の非常事態というのは、わたしたちがいまこうして住んでいる星が破壊の危険にさらされているということなんです」
「ガン星が破壊するって。それはなぜ破壊するの」
「なぜか、ここではわかりません。はやく下へおりましょう。わたしもすぐじぶんの配置につかなくてはならないんです」ハイロは三根夫をうながして、天蓋のところから階段をおりかかる。
 するとうしろにガスコの声が聞こえた。
「わっはっはっはっ。ざまを見ろ。どいつもこいつも、泣《な》き面《つら》をして吠《ほ》えられるだけ吠えろというんだ。宇宙第一の自由星だなんていばっていて、このざまは何だ」
 三根夫はハイロの腕をひきとめて、ガスコの無礼きわまる悪口をがまんして聞き入った。
「怪星ガンがなんだい。ガンマ和尚《おしょう》がなんだい。おれがちょっと宇宙の一角へむけて信号すればたちまちガン星は死相《しそう》をあらわす。ふふン、おれの力も、こうなるとなかなかたいしたものだぞ」
 ガスコは、好きなことをしゃべり散らしている。三根夫はたいへん腹が立った。
「ハイロ。ちょっとここに待っていてくれたまえ」
「えッ。どうするんですか三根《みね》さん」
「どうするって、大悪人ガスコをあのままにしておけるものか。あいつはスパイを働いているのにちがいない。あいつはさっき発令された非常事態に深い関係を持っているのだ。ね、ほら。あいつの持っていた長い筒ね、あれは信号灯だよ。あれを使って、このガン星の中にもぐりこんでいる陰謀団に合図をしていたのにちがいない。すぐ取押えて、つきだしてやらねばならない」
 三根夫は、ガスコが地球人のくせに、こんなところで地球人の面《つら》よごしになるようなことをして、すこしも恥じないのをこのまま見のがしておくことはできなかった。
「いや、それはよしたほうがいい。ここでガスコをおさえると、わたしたちがなぜこんなところへまぎれこんでいたかと、ぎゃくにこっちが牢の中へぶちこまれますよ、それよりも、一刻もはやく下街《したまち》へもどることにしましょう」
 ハイロのいうことは、理屈にかなっている。三根夫は腹が立って立って、ガスコをなんとかしないと腹がおさまらなかったが、このハイロのことばにしたがわないわけにいかなかった。
 二人は階段をおりた。吊り橋のような廊下には、ガン人たちが真剣な顔付になって、あるいは左へ走りあるいは右へ走りして、大混乱をきたしている。
「さあ、はやくヘリコプターのところへいきつかないと、誰かに使われてしまうかもしれない。さあ、はやく」
 ハイロはそういって、三根夫の手を痛いほど握ると、人波をわけて矢のように走った。
 走りながら三根
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